禺伝未見、観劇好き&花組好きの友人宛てに書いた感想を勿体ないので少し手直しして残しておく。
相変わらず感想というより半分あらすじ。なので全力でネタバレしてる。
東京公演を1度しか観てないので勘違い・覚え違いもある。
長くなるにつれてどんどん何を書きたかったか忘れたわ…
 
 
舞台『「刀剣乱舞」禺伝 矛盾源氏物語』、おっもしろかったー!
2列目ドセンター。あまりにも中央真下からの画角で皆を見上げてるので、OPやEDでずらずらと皆さん舞い踊りわらわら出てくるのをずっと心の中で「でぇーーーでぇーーーーでぇーーーーーーっっっ」て叫びながら観てた…あれだよ、映像収録の足元カメラの画角だよ…。視界いっぱいに美しい画が広がってたわ。
こんな良席、宝塚だとポーの最前の1回ぐらいだわ。OG達の美には耐性ついてたつもりだけど、美を圧倒美として押し通してくる演出と美しい人達には勝てなかった…
 
前回の刀ステ綺伝の時のキーキャラクターだったかいちゃんの立ち位置が、今回禺伝のあきら。
人の想いを受けて紡がれた物語(逸話)によって形作られる刀剣男士、という元々の設定が、今回話全体に効いていて面白かった。
 
源氏物語の世界が現実を覆い、物語が現実を書き換えて、現実世界の人間が源氏物語の登場人物を生きることになってくるんだけど、その原因を突き止め元の状態に戻すのが刀剣男士の仕事。(ゲームの設定は22xx年で時の政府が審神者を雇用し、逸話から刀剣男士を顕現して歴史修正主義者と戦って歴史を守るというもの)
知らずのうちに物語によって形作られた刀剣男士の物語も書き換えられていて、それを自覚出来る男士と出来ない男士が居るんだけど、それは現存する刀か否かや、元の物語の強さ(史実の確かさ)にもよる。妖斬りの妖刀とかは史実とは言えないので不確かなものとして他の男士の物語に上書きされてたり。
かいちゃん演じる歌仙兼定は、本来は細川忠興の刀だったんだけど、気付けば妻のガラシャに譲られた刀として存在する事になってたり。背景に綺伝の七海ガラシャと細川忠興の画像が映るんだよ…そこをちゃんとリンクさせてくるの。自分がガラシャの刀だと爛々とした目で名乗る七海歌仙…
 
源氏物語の「行間」の間だけ登場人物達も元の記憶を取り戻せるため、物語の中を行き来して1人ずつ女達に会っては本来の物語と違う選択をさせて、源氏物語に矛盾を作って破綻させて世界を破ろうと画策するんだけど失敗に。とりあえず作中人物に成り代わって破綻させられないかやってみるんだけど、順番に光源氏に成り変わる歌仙兼定(かいちゃん)と大倶利伽羅(翔ちゃん)…。
馴れ合うつもりは無い、が口癖の一匹狼野郎・大倶利伽羅が光源氏になり変わるんだけど、頭中将と女について喋ってる所はまだしも、女達に詰め寄られると嫌過ぎて「これは俺の物語じゃない!」って自力で戻ってくるの、かなりオモロい。光源氏に成り変わってる間も本人がわりと残った殺意高めの光源氏でかなり愉快。
歌仙が入れ替わったのが若紫の章で、若紫に「お兄さま」と呼ばれる七海ひろき…これ末おじ確信犯だよね?ひろきのお兄さま呼びされてるの知らないわけないよね??(綺伝では竹中半兵衛の名前も出た)(そして俺たちのうらら若紫の「お兄ちゃま」も脳内に木霊する…)
源氏物語の「本文」に取り込まれて戻って来れなくなりかけた歌仙を目覚めさせたのは、細川忠興の刀であるという物語の確かさとその逸話への執着なのよね。
 
そもそも発端、源氏物語は嘘の物語(日本最古の物語=当時は作り話は「嘘」という扱いだった)であることを哀しみ、嘘をつくことで作者の紫式部の魂が地獄に落ちる事を嘆いた、源氏物語のファンである名もない、何者でもない男が、紫式部に「嘘を現実にしましょう」と会いに来た事により、作者の紫式部がその熱意に流され、戸惑いながら現実の人間に源氏物語の役を与えてしまうのよ。その男には光源氏を。
ファンが作者に凸ってはいかん…!熱心なファンだろうがファンは感想を伝えるだけで、作者の紡ぐ物語の方向性を変えるような力を持ってはいけないのよ!!
物語を作る側と受け取る側、ひいては何かを発信する側と受け取る側の関係の危うさにゾッとする。善意のお節介ほど厄介なものは無い。熱心な支援者の真心ほど恐ろしいものはない。
 
成り変わり作戦も失敗し、作者の紫式部を探すも刀剣男士を庇って死に、源氏物語がどんどん進んでいってしまって、末摘花の章に来るのよ。
彼女は象のような醜い鼻をとても悲しんでいて。美しい女性がいくらでも出てくる物語の中で何故こんな醜さを自分だけが持っているのか、何故醜さについて微に入り細に入り書かれなければいけないのか、醜いと思うならば何故自分を抱いたのか、たった1度の逢瀬でそんな自分の面倒を見る源氏は立派なやつだと褒められるのも憎い。そしてそんな自分を書いた作者が恨めしい、と。
こんな私を物語の中だけでなく、現実にしようとする「何者でもない男」が恨めしい。
六条御息所も、源氏物語には光源氏との馴れ初めは無く既に気の重い恋人として扱われ、生霊などになりたくなかったのに全編に渡り化け物のように扱われ、そんな物語を現実にされては堪らないと。他の女達も同様に、こんな辛い思いをさせられる物語が現実になってはたまらないと、この物語を破綻させようと懐刀を持って男=光源氏に迫るの。
 
男にとっては、光源氏として殺されれば、その骨が何百年千年後に掘り出され、光源氏の物として発見されれば、源氏物語は創り話ではなく現実にあった話として未来には存在するので、殺される事こそ本望で。刀剣男士達はそれをさせてしまうと未来が変わってしまうので男を殺す事は出来ない。
女達は結局光源氏を好いた心には勝てず殺せないし、最後に若紫も懐刀を握って出てくるんだけど、若紫が光源氏を刺す前に歌仙が光源氏を殺すのよ。光源氏の骨が掘り出されるかどうかはわからないけど、それは未来になってみないと分からない、と。
 
登場人物の女達にとっては心重い物語だし、この時代にとって嘘(物語)は罪ではあるけれど、虚実でしか救えない心も、虚実だからこそ救われる心もあるんだよ、と。
 
そして刀剣男士達の物語の書き換えも戻るんだけど、そもそも時の政府が「物語の強さで刀剣男士の強さが変わるのなら、物語を掛け合わせて強化出来るか実験してみよう」という悪趣味な実験の成果として作り出された刀剣達の本丸の部隊だったようで。歌仙と伽羅は自覚がなく、一文字一家は自覚があり、2振を観察する役目も持ってたようで。実験は特に成果が見られずに終わった…。失敗した刀剣はどういう扱いになってしまうんですかね…という、ちょっと背筋が冷たく感じる結末でもある。
ちなみに刀ステシリーズ、この禺伝の刀剣男士達は、いつもの個体と別の本丸の個体だそうで演練で彼らに会ったことがある、と。いつかこの世界のどこかで合間見える事もあるかもね。そして物語を掛け合わせなくても、あの強い目をした山姥切国広なら変えられるかもしれない、と次回山姥切単騎出陣に繋がる台詞も。
 
最後に歌仙が「物語にそれだけ想いを寄せてくれる人がいるならば、その想いに報いたいと思う」というメタ視点のような事を言っていて、どれだけこの矛盾源氏物語には層が積み重なっているのかと…。物語を作る側の人間達がそれを言うのかと。その言葉を言わせるのかと。
そして「この美しい地獄を分かち合おうじゃないか」と。
ひたすら「物語」を紡ぐ側と受け取る側、物語の裏表、に焦点を当てた話だった。
多分見逃した裏表がまだあると思う。
末おじの頭の中すごいな。
 
 
原作ビジュアル再現度と役の落とし込み方に関しては現役時代同様何の心配も無く、とても真摯で誠実で、安定のお美しさの皆さん。
鬘も衣装も過去公演よりグレードアップしたらしく、シルエットも宝塚のお衣装さん入ってたの?というぐらいツボを心得てて綺麗で良かった。近くで動いてるの見たら、写真で見てたよりお衣装が重くなさそうで安心した…。丈も若干調節したのかなと。殺陣でひたすら階段上り下りするからね。靴も短靴よりよっぽど動きやすそうな靴で良かった。
源氏物語が書き写された巨大な布が舞台上を何度も翻って舞台を覆い、本文と行間を行き来しててね…物語が現実を覆っていく過程が目に見えるようにされたようだし、その布に雁字搦めにされる歌仙が大きな力によって、物語に覆われて消されていく図に見えて。美しくて辛い効果的な装置だった…
真下の位置からだとすごい迫力で、巨大な絵巻物を繰ってるみたいでとにかく面白かった!そしてその布の上を歩き回るので足元緊張した…(目線の高さが皆の足元)
光源氏が翻る布に持っていかれないよう烏帽子を押さえてるのもチラと見えたわうふふ。
 
そうそう、光源氏の第二形態(最終戦闘用装束)…!七海ガラシャの時の第二形態はオスカルかトートと言われていたけど、あきら源氏の戦装束はポニテロングに中国風の白の衣装でな…めちゃくちゃ蘭陵王を思い出したよ!!
流石に源氏物語に洋物マントは出てこないだろうと思ったらそっち……。
鬘は高緯ちゃんぽい、ただし前髪はポンパドールっぽいオールバック。戦装束はカチャの白いのがそっくりで…末おじ、別箱も観てたの…?と。いゃ、そもそもキャスティングの過程で色んな人が色んな作品観てるだろうしね…
あと頭中将と惟光もちょっと出てくるんだけど、頭中将が和海しょう…しぃちゃんにちょっと似てて…花組心が疼く…笑 惟光の衣装のお袖口は黄色で、やっぱりキキ惟光を思い出す仕様よ!笑
 
殺陣はちょっと心配してたけどすごかったよ!
刀ステに合わせてまず殺陣の場面が長いし、刀同士を合わせたり衣装に直接刀をぶつける箇所も多いので、距離取って殺陣する宝塚を見慣れてる私はすごく緊張した…。斬撃に全部効果音付いてるのも高揚してめちゃくちゃ楽しい!
役それぞれに合った殺陣が付けられてて良かった。歌仙はパワータイプ、大倶利伽羅は鋭く無駄が無い。姫鶴は流れるような華麗さ、一文字則宗は華やかで抜け目ない、山鳥毛は一撃が重い。南泉は猫の呪い持ちなので軽やかとか。
日本刀に1番慣れてる翔ちゃんは流石のスピード感と捌きだし(久々にノールック回転納刀見れました)、日本刀で殺陣した事ほぼないあっきーも流麗だったし、かいちゃんは多分綺伝の和田歌仙の殺陣も結構イメージしてると思う。かなり訓練したんだろうなと感じる刀捌きだった。
あとあきらね!光源氏の時には刀剣男士と扇で応戦しててめちゃくちゃ格好良かったです。狩衣に扇握って階段1段跳ばしで駆け上がって殺陣して、第二形態では刀振りまくり刀剣男士達をいなして黒幕オーラ飛ばして舞台に鎮座してたよ。刀剣男士達に応戦して余りある存在感、良かったよ…。
 
「何者でもない男」の登場時、シルエットと声だけで出て来たんだけど、声が高め若め柔らかめに作ってて、ほんと聞き覚えが無い声過ぎて、でも妙に声の低さをカバーした発声に一瞬本当に男性が出て来たのかと思ったら、ちゃんと瀬戸かずやでした…。笑
ちなみに同僚は分かってても、光源氏登場時男性かと混乱したそう…分かる、あの髪型に烏帽子で美男子に見える女性はそうそう居ない。あと顔小さすぎるんだよね。公演ビジュアル出た時はなんか可愛いお化粧だったけど、それより眉は長く、目は細めに描かれてて、いつものあきらの顔に近かった。笑
数多の十二単姿の女房に囲まれて出てくるOPは、本当に美しかった。華やかな装束の女房に囲まれて様になるって元男役じゃないとなかなか務まらないよね。
そして美しく格好良いだけじゃなく雄みがあるのがあきら光源氏のよいところ…。「私は美しい!…美しく地位も名誉もある私と関係が持てて何故後悔するのだ?」と心から不思議そうなあきらはほんとクズで良かった。
真正花男のクズ感を末おじはよく分かってる、とは友人談。笑
 
今回登場の6振りのうち、姫鶴だけ私のゲームの本丸にはまだ居ないんだけど、想像してたより辛辣で吃驚した!笑 気怠げにズバズバ物を言うあっきーは現役時代にはなかなか見れなかった役だね…!
一文字則宗がこの中では1番好きなんだけど、見た目ふわふわ可愛いのに「僕は隠居のじじぃだからな」って言うし「うははっ」て豪快に笑うんですよ…それを可愛いあやなちゃんが演るんですよ…。すごくツボだった。あやなちゃん、私が1番観てた頃はまだ若手スター扱いで好青年の役ばかりだったから、退団してからでもこういう役で観られて嬉しい。彼女の温かい芝居心はとても好きだった。
 
宝塚でもちょこちょこある「女性が演じるからこそ受け入れられる(耐えられる)男性やエピソード」というのが、花組の新源氏の時も思ったけど、やっぱりこの源氏物語にはある。今とは価値観が違いすぎるから。
特に若紫を10歳ぐらいのお嬢さんが演じてるので、光源氏を男性俳優が演ると100%「キモ…」となる事請け合いだし、雨夜の品定めも男性が演ると胸くそ悪い場面でしかないし、花組公演では無かったけど空蝉(何となく抱いた)や末摘花(象みたいな鼻の子)の場面も嫌な気持ちにしかならないので、オールフィメールで正解だなと。
まぁ全員女性でも微妙な気持ちにはなるので、そこは現代の価値観を持った刀剣男士(南泉)が、空蝉を掻き口説く光源氏に全力で突っ込むという場面を作りある程度昇華させてました。上手い。
そりゃもう花男全開で格好良く、腕の中の空蝉を口説く光源氏(CASANOVAのコンスタンティーノを思い出した笑)に「何言ってんだコイツ」「そんなわけねーだろ」「何考えてんだ」と餅つきのようにとてもテンポ良く…笑
 
オールフィメールなので、アンサンブルももちろん女性。OPや終盤なんかは物語の登場人物として十二単を纏って雅やかに出てくるんだけど、車争いではお供たち、戦闘場面では異形の敵として刀剣男士とひたすら戦う戦う戦う…まさに縦横無尽の働きでした…。皆さんアクションが本当すごい。階段落ちまでしちゃうよ…!
 
今のところ刀ステを2つ(科白劇入れると3つ)と、刀ミュを1つ(流し見だけど)観たんだけど、そもそも舞台の主役である刀剣男士って物であって、物語を動かすのは人間(綺伝のカイちゃん、禺伝のあきら)の強い想いなんだよね。そこにいかに上手く刀剣男士を絡めて、話から弾かれないように主体的に動かしていくかというのが一つ前提なんだなと。
自分(刀)の持ち主のために、そして自分の物語を形作った以前の持ち主のために、自分を形作る物語のために行動する、心を動かすというのが刀剣男士の舞台の中での在り方なのかと。なるほど、通りで毎公演、歴史上人物の名前がものすごくピックアップされてるなと納得したわ。
人の側にある刀という特性上、持ち主の兄弟や家族や近しい主従に置き換わったりして、強い執着や愛情を付与しどう刀剣男士の心を動かすかと。これ末満さんさすが上手いねぇ。
そして1部隊6人は確実に出てくる刀剣男士達全員を活躍させるには殺陣が必要なんだ…と納得しました。戦わなきゃメインの2〜3振だけで充分足りるわと。笑
 
客層は宝塚ファンと元々の刀ステ・原作ファンが完全に混ざってる感じで、中心層は3.40代という感じかな。レイヤーさんぽいスタイルの人も居たな。男性って居たかな…レベルでほとんど見てない。
前週に行ったモリミュが20〜30代メイン、そして男性も少数だが居る感じだったので、それとも違って宝塚ファンが混ざってる分年齢層広かった。私のチケットが公式のサイト会員席だったので、この辺は完全に2.30代社会人という感じ。
会場スタッフはほぼ派遣とかのバイトじゃないかな?若い人ばかり。国際フォーラムもそんな感じだし。
物販は電子オーダーシートがあったんですが、いつもと客層違いすぎるためか私が並んだ時は使ってる人は居ませんでした。笑
開幕4日目に行ったけど刀剣男士の個別ブロマイド全員完売してたよ。匂い香も。今はランダムアクスタも売り切れらしい。元々のファンだけでなく、宝塚ファンは購買意欲高いからね…笑
 
退団してなおこの大きさの舞台で心と身体を全力で動かして生きる宝塚OGって、そんじょそこらで観られるものじゃないですか。特に元トップの肩書きの無い方々は。
これだけ大きなコンテンツで演りこみがいのある脚本と役に恵まれた事は出演者にとってもそのファンにとっても、本当に幸せだと思うし、そのきっかけを退団後4年間、誠実に精力的に作り続けてきた七海ひろきは本当にすごい。後に続く卒業生の希望であり道だよ。縦横無尽に前例の無い道をひたすら開拓する熱意に尊敬しかない。
かいちゃんファンに「この十数年応援してきて多分この姿が1番自分が観たかったものだ」と言ってる人がいて、私まで色々噛み締めてしまった…
宝塚の卒業生と、いつか卒業生になるタカラジェンヌ、そしてそのファンにとって、とても意義のある舞台だった。
 
禺伝、とても面白かったし、噛み砕ききれなかったし、近過ぎてあっぷあっぷして全体が見れなかったので大千秋楽配信も買いまーす!特典映像はOG達によるアフタヌーンティーよ!!(綺伝はメロン狩りだった)
これ、もうただのナウオンか合同お茶会では…???