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~元半導体エンジニア、筋トレ好きの風変わり税理士のブログ~

相続税の基礎控除の改正前と改正後 


改正前後の比較は下記のようになっています。

(改正前)
5,000万円+(法定相続人の数×1,000万円)

(改正後)
3,000万円+(法定相続人の数×600万円)

改正前後で基礎控除額が40%も減少となっています。

実例として父、母、子供2人の4人家族で父が亡くなったケースでは、法定相続人は3人(母、子供2人)となり、以下のようになります。

(改正前)
5,000万円+(3人×1,000万円)=8,000万円

(改正後)
3,000万円+(3人×600万円)=4,800万円

改正により、基礎控除額が3,200万円も下がっています。
つまり、自宅が少し広い土地であったり、市街地などで評価額が3,000万円くらいとなっていて、人生100年時代と言われる中で老後の資金として2,000万円の預貯金を残していた場合では全財産の評価額が5,000万円となり、改正後では相続税の課税対象になります。

また、現在は一人当たりの出生者数が2人に満たない状況です。一人っ子の場合は基礎控除額が4,200万円(※1)となり、2次相続(続いて配偶者が亡くなった場合)は基礎控除額が3,600万円(※2)となり、課税される可能性がかなり高くなっていることが感じられると思います。

(参考)
※1:法定相続人は2人(母、子供1人) 3,000万円+(2人×600万円)=4,200万円
※2:法定相続人は1人(子供1人)   3,000万円+(1人×600万円)=3,600万円

相続税の基礎控除の改正後の影響 


改正前の平成26年と改正後の平成27年で比較すると、相続税の課税対象となった死亡者の数が56,239人から103,043人と倍近くまで増加しています。死亡者総数に対する割合では4.4%から8.0%となっています。

また、相続税を納めた相続人の数も133,310人から233,555人と10万人ほど増え、納付税額も1兆3,908億円から1兆8,116億円と4,200億円ほど増えています。今後、団塊の世代が70代後半に差し掛かってくることを考えると、しばらくは相続税の課税対象の人は増え続けることが想定されます。

基礎控除の引き下げにより、上記で述べた改正の背景である富裕層からの課税強化は達成されています。ただし、財産の総額が少ない人に課税しているため、納めた人の数の増加に対しては税収はそれほど増えていないことになります。

そのため、以下で述べる暦年贈与の非課税枠の見直しや財産の持ち戻し(※)期間の見直しが検討されていました。

(※)持ち戻し:相続が発生した場合に過去に贈与した財産の額が財産の額に加算されること
(対象となるのは法定相続人と遺贈(遺言)により財産を取得した人のみ)

そのため、令和5年の改正では持ち戻し期間が3年から7年に延長されたということになります。
(令和6年1月1日贈与分から適用)

基礎控除改正後の相続対策としては持ち戻し期間の改正がされるまでの間は、暦年贈与(毎年の贈与)の非課税枠である110万円以内の贈与を毎年実施することが有効でしたが、7年にわたって遡られるため、贈与をする相手が重要になってきます。

非課税枠110万円は贈与する側(贈与者)ごとではなく、贈与をされる側(受贈者)ごとの限度額となります。
一般的には親から子がメジャーですが、子は法定相続人になるため、前述の7年持ち戻しの対象になってしまいます。

そこで、法定相続人でない孫などの出来るだけ多くの親族に財産を分配しておくことが有効な相続対策となります。

他には暦年贈与の金額以上の贈与が出来るものとして「住宅取得等資金の贈与」「結婚・子育て資金の贈与」「教育資金の贈与」などがあります。住宅取得等資金は最大1,000万円、教育資金は最大1,500万円までという大きな金額の贈与を行うことが出来ます。

ただし、期限があり、住宅取得等資金は令和5年12月31日まで、結婚・子育て資金の贈与は令和7年3月31日、教育資金の贈与は令和8年3月31日までです。

この他の対策としては養子縁組により法定相続人の数を増やして基礎控除を上げるという手もあります。ただし、何人でも増やせるわけではなく、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までとなります。
 

今後の展望 


令和5年の改正のポイントは7年の持ち戻しともう一つ、相続時精算課税についても110万円の基礎控除が出来たことです。元々、相続税と贈与税の一体化という観点がありましたが、今回の改正で国側も相続時精算課税を推奨しているように思えます。

相続時精算課税は有効な対策なのですが、使い方が難しく、一般の方には馴染みがないためにあまり利用されてきませんでした。

次回の記事では相続時精算課税について詳しく解説したいと思います。