先生の似顔絵を描くという授業がありました。
美術の授業はもちろん美術部も無い私の学校では
無いであろうことです。

中学のころは美術部でしたがお遊び部活で
成績も残さないまま引退。
絵を描くのはとても好きだった、
できることなら一生の職業にしたい、
いや、してみせるという勢いと希望を持っていましたが
友達の前で絵で飯を食うなど言えず、
ヘタクソながらも家に帰ると自分の手や、
新聞の写真などを模写していました。
高校受験も面倒でとりあえず家から2キロの
県立高校を受験。
ほんとうはアルバイトをしながら
中卒で美術の専門学校に行きたかったのです
行けることなら私立の美術科に行きたかった。
でも家にはそんなお金も私の頭脳も足りなかった。
しかし倍率の少ない地元の高校だから受かってしまった。
受験生達が飛び跳ねて喜ぶ合格発表に私は絶望しました。
受かなければ私は本格的に絵の勉強ができたかもしれないのに、と
誰を恨むともなく恨みました。
ほとんど白紙の答案は提出するだけで合格と決まっていたのでしょう。

部活は今年から強制的に一年間入らないといけないらしく、
家に帰ってゆっくり集中して絵を描く時間もなくなり
校則のゆるさも
友達もクラスメイトも好きだけど
この春で学校はやめようと思っていました。

そして今日、先生が
みんな、わたしの似顔絵をそのプリントに描いてみろと言うのです
皆笑いながら描いていました
漫画風に描く人、絵は苦手だと言いつつ不器用ながらも一生懸命描く人、
わたしはもう一年もまともな絵を描いていませんでした。
友達に頼まれた人気のアニメや漫画を模写する程度。
あのころの体の血が熱くなって利き腕に集まってくる感覚を忘れたのです
絵を描きだすとどきどきして、真っ白な紙に自分の見た世界と心境と音と雰囲気が広がって
熱い右手が忙しく作りだしていくあの感覚
眼鏡を忘れた私はよく見えない先生の顔を目を凝らして見て
見たままにかきました
右手が熱くなってくる感覚を感じながら
わずか5分程度のタイムスリップだった

よく見えないためにぼんやりした先生の顔

先生は一人一人楽しそうにみていった
私の絵をみて何と言ったかよく覚えてない。
でも確かに嬉しそうに何か言ってくれたのはわかった
放課後体育教師に用があって職員室に行ったとき
似顔絵の先生が言った

今度絵をみせてください、

湧き上がってくる気持ちを感じた

嫌味とかじゃない確かな言葉を感じながら
プロの中でけなされるより
趣味で喜んでもらえる絵を描いたほうが楽しいんじゃないかとか思ってしまって

諦めるって苦いものだと思っていたのに