Instagramでこの映画のリールを見て、広告やパッケージにも使われているこの空を漂う恋人たちの映像があまりにも美しく観たくなった。すぐにタイトルを調べてAmazonプライムでマイリストに追加。プライム特典にはなかったんだけど、レンタルで観ることにした。

 私が見たリールは英語のもので、タイトルが”About Endlessness”だった。スウェーデン語の”Om Det Oändliga”というのも同じような意味らしい(Google翻訳した)。私はこのタイトルがとても美しいと思うので、正直日本語タイトルは好きじゃない。「ホモサピエンス」も「涙」も野暮ったいというか、わざとらしいというか(個人の好みだとは思う)。

 最初から最後まで色々起こるんだけど何も起こらないし、解決しない。ただ関係のない、時代も境遇も違うさまざまな人々の人生の一幕が次々と語られ、語り手の女性がときおり説明ともとれない説明を加えるだけ。同じ人物が何度か出ることがあるけど、だからといってその人の抱える問題に何か進展があるわけでもない。めちゃめちゃ余白が多い作品だなと思った。どのシーンも視点が固定で、ワンカットで撮られてるらしい。途中まで、語り手は空から街を眺める恋人のひとりで、彼女が上空から見たことを語っているのか? と思ってたけど、語り手が2人のことにも言及したのでそうではなかった。パンフレットを読むと、アラビアンナイトのシェヘラザードにインスピレーションを受けているらしく、なので女性の声にしたらしい。登場人物たちの相関関係(それぞれのシーン内での)も、必ずしも開示されるわけではないので、想像するしかないことも多い。悲しみや問題を抱えたシーンの割合が多いけれども、喜びに満ちたシーンもある。踊る若い女性たち、赤ちゃんの写真を撮る家族、誕生日パーティーへ向かう父娘。

「私は、常に存在の美しさ、生の美しさを強調したいと思っています。しかし、そのためにはコントラストが必要で、悪い一面や残酷な一面も見せなければいけません。」

 これRevoも同じようなこと言ってたな……。「光を表現するには影を濃くするといい」っていうよね。すごく印象に残ってる。なんか私自身、悲しみも喜びも愛さないと人生を愛してることにはならないと思って生きてるので、悲しみが描かれた物語を好んで読んだり観たりしちゃう。でもただ悲惨なだけじゃなくて、人類や人生への愛があるものが好き。

 戦争のシーンについての質問だけど、「私たちはある意味で、みな負け犬です。最終的には誰も勝者ではないのだと認めることは大事なことです」という監督のことばもよかったな。戦争に関しては全く持ってその通りで、争いを始めてしまった時点で、私たちは憎悪や暴力や略奪に負けてしまっていて、勝者はいない。人生に関しても、何事に関しても、真に勝者はいない。でもそれって悪いことではないよね。

 パンフレットを読んで知ったんだけど、ロイ・アンデルソン監督は絵画から着想を得ることが多いらしい。私が好きな空を漂う恋人たちも、ジャガールの「街の上で」って絵画から影響を受けてるんだって。ジャガールって実はそんなに好きじゃないんだけど、ちょっと興味出てきたかも。あと、血を流す娘を抱き抱えた父親のシーンがあって、そのシーンはレーピンの「1581年11月16日のイワン雷帝とその息子イワン」っていう、イワン雷帝が殺してしまった息子を抱き抱える絵から影響を受けてるそう。私はこの絵画のイワン雷帝の絶望と悲しみと後悔に溢れた見開かれた瞳がすごい心を揺さぶるので、怖いし悲しくなるけど惹きつけられる絵で大好きで、全然気付けなくてちょっと悔しかった!笑 でもそれ以上にパンフレットでそれを知れてとても嬉しかったな。気付くこと、思うことが観るたびに出てきて、楽しみが増える映画だと思う。観る人の境遇や状況によっても観え方が変わりそうだね。

 映像の美しさで興味を持ったけど、思想的にもすごく共感できる作品だったので、ぜひ監督のほかの作品も観たいな。