髭面のオッサンがカフェで黙々とケーキを食べる姿を
説明なしに描く冒頭シーンで作品が好きになった。
ミルクをフォーミングする時のツツツツという珈琲屋には馴染みの音も同様。
余計な邦題と予告編のミスリード(改変意図が不愉快)
事故死した夫に……というミステリー仕立ての女性映画かと思えば、
単に「ケーキ職人」という原題通り、孤独なゲイ青年に寄り添う。
突然連絡が途絶えた愛人を追い
ドイツからイスラエルへ、カフェを営む未亡人に近づく。
ユダヤ人コミュニティという言葉も風習も異なる異国の地で
故人を挟んだ男女の距離感の変化をケーキや料理を巧みに使い描写。
過去を知らずに積極的な女とそれ故に距離を置きたがる男の男女の駆け引きが
淡々としながらも、心地よくスイングする。
時折翻弄される女性側に寄り、作劇としては視点のゆらぎがあり、
些か不安定だけど、それでも想いの交錯が堪能できる。
何よりも観終わってドイツ菓子が食べたくなるケーキ映画。

偏愛度合★★★