予告編では、カサイ・オールスターズの印象的なアフロビートな音楽とその歌姫の恋や人生を
描いたポップなヒューマンドラマかと思っていたら、後半からどんどん転調して、思わぬ方向へと向かう。
てっきりフェリシテという名の通りの幸福への日々泡のような淡い物語かと思えば、
現実的で同時に非現実的なマジックリアリズムいっぱいの作風に戸惑う。
素直に音楽映画を期待していると、過酷な現実が立つふさがる。
女手一つで息子を育てているが、反抗的な息子がバイクの事故で足を骨折して、手術代がのしかかる。
多額の金が必要となり、借金に駆け回る。
挙句の果てに物乞いのようなことまでするシビアさ。
バーの常連でヒロインに好感を抱く修理工の男(実はポエマー)が何かと気にかけてくれるけど、
なかなか直球の恋愛ものの展開にはならない。
まるでいつまでも修理が終わらない冷蔵庫のようなものだ。
更に本筋とは関係のないエストニア生まれの作曲家アルヴォ・ペルトの
シンフォニックな曲の演奏シーンが挿入される。
ワールドミュージックのとクラシックの対比が不思議なリズムとなる。
加えて後半に至り、現実的なシビアな物語の中に、
闇と動物が交錯するマジックリアリズムなインサートが加わる。
現実と非現実が混沌となっていながらも、それでも日々が続く。
最期にはカオスを音楽がバランスを保ち、かろうじて両者を結びつける。
てんやわんやの後に再びステージへと戻るヒロイン。
息子も片足を失ったけど、再び一人で歩き始める。
音楽がハッピーエンドばかりをもたらすわけではないけど、それでも人生は続くのだ。


偏愛度合★★★