全編通して松岡茉優ひとり劇場。
物語として脇に配されている人物はいても、それらは虚実が入り混じったキャラクターライズされた
妄想に過ぎず、原則的には殆ど彼女のひとり芝居に近い。
身勝手な絶滅危惧種の暴走の行方を見守るのが観客なのだ。
それを楽しめるか、否かなんだろう。
夫婦50割引きなるサービスを活用し、時々時間を合わせて一緒に劇場へ行く。
もちろん妻が興味のないホラーやSFなどのジャンル映画は単独行だ。
嗜好があって一緒に行く作品に関しては、大概似たような印象を抱くけど、
今回は珍しく夫婦で評価が真っ二つに割れた。
「つまらん、観んかったらよかったわ」に対して、実は自分は結構好きなんだよな。
「ひょっとして、2017年邦画ベスト10入りかも」というくらいに天と地。
まずは松岡茉優という女優が面白い。
「ちはやふる」で主役を食った敵役で一躍名を売ったのだろうけど、
「問題のあるレストラン」でのパーカーちゃんの印象が最初。
顔立ちに特徴がないけど、役柄で印象を全く変えてゆく、手堅い演技力がある若手のひとりだろう。
関係ないけど、件の坂元裕二脚本のドラマって、真木よう子や二階堂ふみは
既にブレイクしていたけれど、松岡茉優に高畑充希、菅田将暉、臼田あさ美、東出昌大など、
後々の個々の活躍を見れば驚くほどの青田買いキャスティングなドラマなのね。
余談はさておき、今作の松岡茉優は恐ろしい文字量の台詞を間合いを無視して、
ひたすら早口でわめきたて、挙句に歌って、踊ってしまうから、もう勝手にしてやがれって感じなのだ。
同性ではないので役柄への感情移入は必要ない、
というより多分不可能なので、こじらせまくった痛さも物見遊山で客観視できる。
脳内動物園で身勝手にうごめく絶滅危惧種の珍種を他人事のように柵越しに眺めればいいのだ。
原作は未読なので、台詞や展開がどの程度脚色されているのかは不明だけど、
個人的には「ファックファックファックファック………!!!」というのがツボだった。
原作も監督も女性で、女性による女性映画なんだけど、女性向きかは微妙なのかも知れない。
基本的な展開は少女漫画的なふたりの王子様をめぐる恋愛ものだけど、同性なので容赦はない。
男性監督にありがちな女性妄想性はなく、生々しく痛いところを突いてくる。
垂れ流される自意識を痛いと感じるか、否かが作品の印象を決定するのかな?
多分男性主人公で同じく垂れ流し設定ならば、受け付けないかも知れない。
いちいち描写が細かい。
外から部屋に帰ってくるとうがいをする、走る前にコンバースのかかとを直す、いちご牛乳など
本筋とは関係のないようなディテールと小道具を繰り返し、ひたすら積み重ねる。
この執拗さが単なる妄想譚を映画の物語としてドライブさせるのだ。
反対に主人公以外の登場人物造形は一方的で主観的な類型で、事実を妄想化して歪曲する。
実はリアルで生身の人物は誰もいない。
まさしく書き割りの背景をバックにひとり芝居を繰り広げている感じ。
歌って、踊ってというシーンは他の映画でも何度も引用されている「フェリスはある朝突然に」風だけど、
きちっとミュージカル映画として技巧を凝らさずに、あくまでも妄想内でもがき、足掻いている感じで流す。
またヘッドフォン女性フェチ(?)ならば、最上級ヘッドフォン映画として味わえるかもしれない。
もう松岡茉優を存分に堪能できる……っていうか、それしかない映画か。
あゝお腹いっぱい♪



偏愛度合★★★★