ダニエル・クレイグが楽しそうに演じているのが何より。
ボンド俳優は良しいに悪しきにそのイメージに縛られ、何を演じても
「ボンド、ジェームズ・ボンド」と言い出しそうで、時として役柄の呪縛となる。
三作品で出演終了との本人の決心も目の前に積まれた札束に負けたのか、
執拗なネゴシエーションの結果なのか続投が決まっているみたいだけど。
その隙間に自由に正反対のチンピラ役をトム・フォードのスタイリッシュなスーツから、
囚人服の繋ぎに汚れたTシャツ(ボーダーが重なっている案件だ!)に変え、
なまりのある英語で収監中の爆弾犯を嬉々と演じる。
元々ボンド役で世界的にブレイクする前は、
強面のギャングやチンピラ役の多い中堅俳優だったので、ある意味原点回帰なのか?
スティーヴン・ソダバーグ監督復帰作というのもあったのだろうか?
元来役者の配し方がうまい。ギャラや予算とは関係なく、俳優が自ら出演したくなるタイプの監督だ。
ダニエル・クレイグ以外にも、軍人か警察官専門のマッチョ男優チャニング・テイタムが
意外と知能犯なホワイトトラッシュだったり面白い配役だ。途中までの気が付かなかった意外さ。
アダム・ドライヴァーもまた超大作SWシリーズと掛け持ちしながら、
最近インディーズ映画で個性的なようで役柄に溶け込み印象が薄いすっとぼけた役柄ばかりを演じている。
今回もこの三人の面構えを揃えた段階で期待が高まる。
ストーリーテリング自体はアメリカ映画の主流手法、キャラクターを立たせ、
物語と共に変化させるという脚本セロリー通りの起承転結が明確で音楽でお盛り上げ、
全編スリリングな見せ場をテンコ盛りというタイプではない。
むしろその正反対でゆるいキャラクターの動きとオフビートな物語運びである。
ケーパーものの真骨頂である、トリックやスリリングな展開は程々にとどめ、
何よりも強奪劇なのに一発の銃弾も死者もでない、荒唐無稽感はなく描写は一応はリアルだけど、
全体的には牧歌的なファンタジーともいえる作風だ。「オーシャンズ」シリーズよりもさらにゆるい。
深読みすれば、アメリカの社会の底辺(ボトムズ)を見つめる視線が明らか。
底辺元アメフトの有望選手だっだが、怪我のためにプロの道を立たれた、肉体労働に従事している兄、
イラク戦争で左腕を失い、義手でしがないバーテンダーの弟とどちらも不遇な人生を過ごしている。
ハイソな「オーシャンズ」シリーズとは対照的。
誰も死ないのも皮肉とも言えるだろう。
またエルヴィス・プレスリーの孫娘を二人の妹役で華として揃えるが、
不遇な男たちの底辺を抑圧する社会へのオフビートな無血革命という図式が基本なのだ。
対する追ってとしてのスパイスはヒラリースワンクの不敵な面。
明確な物語構造を敷くけれども、決して気張らずゆるく、ゆるく、ひたすらゆるく、
でも娯楽として全然退屈しないで2時間にまとめ上げるのは流石の手腕だ。

偏愛度合★★★