今年の「お嬢さん」といい、先日衛星放送で観た「暗殺」 ☟ といい韓国映画では
日本軍の統治時代の朝鮮を舞台とした映画がちょっとしたブームのようだ。


自国の歴史や当事者(抵抗者)を美化して、反日感情を煽るプロパガンダ的な作品もあるだろうが、
それを越えた娯楽作品としてテンコ盛りの傑作が多いのも事実。
先に挙げた三作品は、日韓の二重言語が飛び交う、登場人物における言葉のリアリティの問題は
残るものの、映画として存分に楽しめる傑作ばかりである。
実は物語の視点を比較してみると、結構面白い。
そもそも対立陣営における諜報戦が映画的な物語の定番のひとつであり、
米ソ冷戦時代に多発されたスパイ映画を見ても明らかなことだ。
対立組織、潜入者、二重スパイ、裏切りなどなど、お馴染みの物語展開がいっぱいだ。
韓国が描く日本人像だから、神経質になる部分もあるだろうけど、作品の面白さとは全く別問題。
本国で750万人動員、3週連続興行収入第一位というのもうなずける。
まるでテンコ盛り状態で過剰なまでに楽しませる娯楽に徹した語り口には感服する。
現在、邦画で同じテーマ、舞台で客を呼べる娯楽作品が撮れるかといえば疑問だ。

ということで本題。
統治国と被統治国という国家が登場人物のアイデンティティの背景に存在する。
朝鮮人でありながら日本警察に属し、協力する主人公を演じるのはソン・ガンホ。
流石の存在感を放ち、スクリーンでそこにいるだけで、何かが起こりそうな雰囲気を漂わせ、
観客を巻き込み、物語をドライブさせる起爆剤のような俳優だ。
彼の役柄は二つのアイデンティティを背負い、両国を俯瞰して眺める物語の視点としても機能する。
対立図式こそ、映画における物語の原点だ。
日本軍の命で独立運動組織の追い、二重スパイとして潜入捜査しながらも、
彼らの活動自体に影なる協力者として、やむを得ずに巻き込まれていく姿を描く。
日本軍と独立運動組織の両者を騙しているのか、騙されているのかというのかが曖昧になり、
裏切者である密偵の存在が浮かび、その心情が揺れ動く過程がスリリングに堪能できる。
ソン・ガンホの行動を追うことで、戦時下における国家間の諜報図式が俯瞰できるのだ。
また鶴見慎吾を配するなど、日本の観客が見ても、
日本軍の描き方には極端に事実を歪曲、逸脱した違和感はない。
あえて言えば日本人であるはずのハシモト役に韓国俳優オム・テクを配しての、
変な片言の日本語だけは流石にちょっと違和感があるけど、それ以外の部分は問題なし。
また独立運動組織のボスであるイ・ビョンホンの登場は少なくてもふてぶてしい存在感、
「新感染」とは全く違う印象のコン・ユのといい濃い男同志の熱いバトルには思わずあがる。
ハン・ジミンという紅一点はいるけど、基本は男の世界が炸裂する。
それぞれが抱える信念や信条、友情が国家間の駆け引きで揺れ動く。
とにかく見せ場が多い。
冒頭の逮捕劇からして、日本家屋の豪華セットを組み、地上から、屋根からと
縦横無尽にカメラが移動しながら追う者たちと追われる者をスピーディーに描く。抜群のツカミだ。
その後も、上海に舞台を移してからの逃亡劇に銃撃戦、
再び京城へ向かう列車内での敵味方が入り乱れる密室サスペンスから一転して、
駅での激しい銃撃戦へと矢継ぎ早に繋がる。
そしてラストに用意された日本軍の晩餐会での爆破劇は、絶対意図して模倣しているだろうけど、
まるでタランティーノの「イングロリアス・バスターズ」のラストでのナチス暗殺を思わせる。
そしてラストの「第三の男」引用とくれば、
反日思想の扇動が目的ではなくて、つくり手が映画を愛し、観客を楽しませるために、
ひたすら娯楽作品として、2時間20分にもわたり、ありとあらゆる要素を盛り込んでいるのがわかる。
この途轍もないテンコ盛り感こそ、昨今の韓国映画の持つ悪化なパワーだ。
いやいや、参りました。


偏愛度合★★★★