「愛か、狂気か。」と宣伝文句にはあるが、
ゴッホ自身の愛や狂気というより、製作者のゴッホへの愛と狂気を感じさせる。
実写で撮影した映像を125名の絵描きがゴッホのタッチを模した1秒間12枚の油絵に置き換え、
その総数62450枚の絵を繋げた作品。確かにゴッホの絵がそのままギクシャクと動く様は圧巻。
途轍もなく手が込んでいるというか、ちょっと異常な執念の欠片すら垣間見える。
絵画への愛情が転じて、動画でのその再現という偉業へ挑んだ妄執は凄まじい。
同じ実写映像をアニメーション加工した作品では「スキャナーズ・ダークリー」を思い出した。
こちらも「ゴッホ」ほど手は込んでいないが、こちらは一流の俳優を使いながらも、
オリジナルの実写ママではない加工された映像によって、独特の浮遊感が生まれて効果を上げている。


やはり、何よりも映像スタイルありき作品。
肝心のストーリー自体は誰も知らない巨匠の衝撃的な真相とか、意外性を売りにしたものではない。
未体験な手の込んだ映像こそが全てが語る。
郵便配達人の息子アルマンを探偵役にして、
晩年の弟テオとの関係や耳切り事件、その末の自殺といったゴッホの行動を追うミステリータッチ。
アルマンがソフト帽を被り、コート姿で手紙の謎を追い、現地へ赴き、周囲に聞き込みを続けるなど
私立探偵を主人公としたハードボイルド小説をイメージしているのだろう。
もっともこれまで知られた史実を覆すドンデン返しがあるわけではない。
その調査過程複数の書簡を通して、ゴッホという人物の心情へとに近づこうとするだけ。
誰しも他者の内面に入り込むことは不可能であり、
客観的な事実を積み重ねて個々が特定の人物像として組み立てるだけ。
「絵画によって彼自身を語らせる」「体験型アートサスペンス」というコピーは言い得て妙だ。
動く油絵という衝撃に慣れてしまえば、割と淡々としたストーリーテリングで、体感時間は長く感じる。

偏愛度合★★★