もはや現在、宗教とSNSとの差異は希薄だ。
それは神という抽象的な存在の有無の問題ではない。
誰かしらをリーダーとした集団があり、特定の手段(概ねネット経由のメディアツール)で繋がっており、
共有思念を持った段階でその集団は広義の宗教と化する。
宗教法人登記とか、教会やバイブルと無関係に、群れとして信仰心に近い暴走を開始する。
ネットでトライブとなった集団は瞬時の情報交換を行い、時として暴動、デモなど
リアルでの動きを伴いながらもベクトルを持ち、社会に影響力を与える。
かつての宗教は信者だけが共有しているいい意味でも悪い意味でも閉じた世界だった。
ところが知覚の扉が不特定多数へと開かれると、味噌もクソも混在してたカオスと化す。
原作は2013年に書かれた小説。
当時はいくつかのIT企業をモデルに来るべき未来像をイメージしたかもしれないが、
現実がフィクションを追い越し、現実の世界そのままとなっている。
エマ・ワトソンが実験モデルとなる音声映像を24時間中継可能な小型端末「シーチェンジ」だって、
直ぐにでも商品化可能だろうし、彼女の所属する「サークル」社も現存する複数IT企業を
部分部分を寄せ集めて融合されたような会社で、全く絵空事ではない。
新商品の発表では社員が一同集う会場の壇上へカジュアル姿なCEOが登場し、
ジョークを交えながら説明する姿などアップル社で既視感一杯だ。
同時にこの光景は宗教集会と全く同質のもので、教祖をあがめる礼拝とそっくりの光景なのだ。
物語は語り口に準じた図式化されている。
田舎出身で友人から誘われ入社したエマ・ワトソン。当初は純粋無垢な存在であり、
それが全てを可視化した私生活と聴衆の反応「いいね!」を得るために変化していく様を主軸とする。
対するトム・ハンクス自体は社を代表する存在で、全てを知ることができる理想社会を唱えながらも、
懐に二面性を抱えたようないかがわしい人物を演じる。
流石表層の当たりの良さとその裏面の黒さを好演。
人の持つ本質は今も昔も大して変わりない。
でもネット普及以前と以降が明らかにもとなるのがある。
特定の教義や人種、属性へ異論を唱える右翼やレイシストも昔から存在してきたけど、
例えばわかりやすいところでは右翼の街宣車が街中をがなり立てるなど、
リアルな実行動を伴ってきたがネット以降はそれがネット上でアンダーグラウンドな匿名として展開
されるようになっただけ。人の本性ではなく、単なるツール(使用武器)の問題なのだ。
物語の後半、全て可視化するツールの持つ諸刃の剣が明らかになって、
図式化して対比された主人公たちが内面が変化していく。
エマ・ストーンは彼女を会社へ誘った友人、家族、創業者の一人でありながら左遷されたシステム開発者
などとリアル世界でのすれ違いで変化し始め、自分なりの真相を悟っていく。
まさしく物語の構造は、新興宗教に潜入した女性がフリのつもりが段々と洗脳されながらも、
最後にはそ自己の解放へと至るというお馴染みの潜入捜査もののような形式を導入している。
やはり宗教とSNSは同質なのだ。

偏愛度合★★★