こんなとんでもないオッサンが実在していたというアメリカの途轍もない懐の広さというか、
クレイジーな現実には驚くしかない。
更には映画の絵空事よりも荒唐無稽な実話をベースにして映画というワールドワイドな商品へと
置換する貪欲さもまたいかれたかの国を象徴する。暗部も恥部もまた映画のネタに過ぎないのだ。
エスキモーに氷を売るというセールスマンの例え話を地でいくのが映画業界。
本人写真は似ても似つかぬもっさいオッサンだけど、トム・クルーズが演じるとクレイジーだけど、
チャーミングなアンチヒーローとなり、作品自体もピカレスクロマンと化する。
というよりある時期以降、トム・クルーズは何を演じても、
頑張って役柄に挑んでいるトム・クルーズにしか見えないんだけどね。
トム・クルーズものというジャンル映画と化してしまったのだ。
でもお抱えの監督や脚本家と組み、長年に渡り、毎回ある程度のクオリティを維持しているのが凄い。

大手航空会社のパイロットという安定した職を捨て、CIAの怪しげな依頼を受ける。
中南米国々の航空撮影から始まり、武器輸送、兵士輸送とどんどんエスカレート、
更にはコロンビア麻薬カルテルからのコカインの空輸も並行する。
フライト毎に双方から莫大な報酬が動き、財産を築く。
際限なく貯まり続ける札束の扱いが面白い。
小銭稼ぎで始めた仕事だったが、財が飽和状態を超えてからは目的と手段が逆転して、麻痺してゆく。
本来の金儲けという目的が形式化して、両陣営の間を綱渡りし、飛ぶスリルが全てとなる。
行動原理は破天荒だけど、単なる金の亡者にはならないのが、不思議なバランス感覚。
銀行に預けきれなくなると、次々とペーパーカンパニーを立ち上げ、
それでも処理できなくなるとストレージに掘り込み、庭に埋めるというドタバタ喜劇と化してゆく。
実話ベースだけど、リアルでシリアスな話をそのままシリアスに映画化するのではなく、
ブラックなコメディとして、時代毎に章立てして、
回想形式で80年代のロックをバックにテンポ良く展開する。
決して退屈はしないけど、トム・クルーズというジャンル映画として並の出来具合かな。

偏愛度合★★★