一番の怖いのは悪魔でも、悪霊でもなく、人そのもの。
人の心の中に巣くう飽くことなき自己利益の追求や排他心であったりする。
それ故に世界中どこの国でも差別は決してなくならない。
表層化する差別行為の方が明確で判断しやすいものであり、奥底に根深くしのぶ心の方が怖い。
その意味では観るものを震え上げさせる見事なホラー映画。
でも同時に、笑うに笑えないけど堂々たるコメディ映画でもある。
全米で人気コメディアンの監督作と知って納得した。
概して笑いと恐怖は同じ構造を持つ。
実は表面に見えるものの裏側に隠された極端な誇張、部分増幅、滑稽さ、暗喩、皮肉、心理操作、
既成概念や倫理観の破壊、扇動、疾走感等々、そこには共通する手法がいくらでもある。
ヒロインである白人女性がニューヨークから黒人男性の恋人を連れ、
白人が多く暮らす保守的な郊外の住宅街に帰郷するのが物語の発端。
黒人である彼に対して明るく気さくに接し、リベラルでオバマ大統領支持を表明する家族たち。
この作品の面白さは、前半で提示されたこの設定が中盤以降ことごとく逸脱して、
予想外の方向へと転がっていく展開にある。
前述で言うホラーとコメディの共通手法をそのまま導入する。
誇張された差別のない家族の平穏さが皮肉や滑稽さになり、やがて張り巡らせた伏線により、
観客を心理操作し、その既成概念を打ち砕き、予想外の方向へと扇動し、疾走していく。
転調していくこの一連の流れが何とも最高なのだ。
詳細を記すとどうしてもネタバレになってしまうけど、シドニー・ポワチエ「招かざる客」が
何故か「ボディ・スナッチャー」「ステップフォードの妻たち」へ転調する流れは堪らんものがある。
基本観客視点は黒人青年に置き、彼の見たり、体験した風景として描いていく。
愛していたはずの恋人の突然の様変わり(実際に見た目の様子が明らかに変わる)、
理解のある家族の本音を露わにして、崩れゆく様など恐怖であると同時にブラックな笑いを伴う。
「ええええええええ、その展開なの?」という全く予想外の驚愕が待っている。
これこそ、すぐれた映画のつくり手の持つ観客を欺く心理操作という詐欺師感であり、
何とも映画的などんでん返しだ。
そして一皮むけば明らかになる人の本性こそ、一番怖いものであることを痛感。
偏愛度合★★★★★