女神の見えざる手」と二本立て観賞推奨。
「女神」が頭脳戦ならば、こちらは肉弾戦だけど、
同性異性問わずに、抱かれたくなる(抱くではない)強い女性の物語。
どちらも先読みできない展開で観客を魅了する。
元来防諜戦って、大枠の対立構造(今作では欧米資本主義とソ連共産主義)はあるけど、
「裏切りのサーカス」などを見ても明らかなように、二重三重の内通者が入り混じり、
誰が味方で、誰が敵なのかすら判読不明な混沌たる状況下。
特にベルリンの壁崩壊寸前という時代設定が絶妙だ。
両体制内とも混乱の極みに至り、体制を分ける壁の崩壊は諜報員自身の失業でもあるので、
大義名分となる思想より、現状維持という保身故に裏切りが飛び交う。
正直言えば、余りに魂胆とした状況なのに、説明や台詞を省き、最小限に留めているため、
物語の流れは破綻寸前で肝心のプロットが全く整理できていない。
ロシア人はみんなひげ面で同じ顔に見えるし、途中でどうでもよくなってくる。
でも同時にこれは意図的な演出のような気がする。
すぐれた映画に共通するのは如何に観客を操作して、だまくらかすかという点に尽きるのだから。
状況整理よりも、ヒロインであるシャーリーズ・セロンの行動のみを追う視点を狙ったのだろう。
結果は吉と出ている。
観客は筋を追うよりも、彼女のやることなすことに釘付けで、魅了される。
彼女の内面の心理描写や過去を全く描かず、常に無表情で罵声を除けば、言葉も最小限。
これは「女神の見えざる手」のヒロインも同様。
観客が主人公に自分との共通項を見出し、共鳴して、自己投影するタイプの役柄ではない。
ましてや演じるのがマジで幼少期から地獄を見続け、どん底から這い上がってきた42歳の女優だ。
説得力の桁が違う。
単純な女性活躍映画というフェミニズム視点でも収まらない。
スタンドインは最小限で殆ど自らが傷だらけになってアクションシーンをこなしているらしい。
特に後半の見せ場である8分間ワンカットでの長回し、ウェイトに差がある野郎多数を相手の
段々とよれよれになって、傷だらけにって瀕死でも戦い続けるシーンは圧巻。
思わず「姐さん、もうやめて、お願いだから」と訴えたくなる。
アクションと同様に銃描写(弾着、ゴア描写)も容赦ない。
また背丈のありスタイル抜群の彼女だから、着こなすハイファッションからパンク姿まで凄まじく映え、
ブルーの瞳に原爆級の破壊力のブロンドヒロインだ。
彼女に花を添えるのはジェームズ・マカヴォイのインチキ臭さであり、役柄自体は全く意味不明だけど
身を張って絡むソフィア・デプラ(ジャンル映画特化型映画秘宝系女優♪)に
常にグッドなのかバッドなのか不明なジョン・グッドマンと巧みな配役なのだ。これも文句なし。
当局からの、行為の合否を問われる査問シーン(これも「女神の見えざる手」と共通)から始まるけど、
結局のところプロット自体はどうでもいいのだ。
物語よりもシャーリーズ・セロンを心ゆくまで堪能して、お腹いっぱいになって劇場を後にする。
まさしく男も女もセロン姐さんに抱かれ映画だ。

偏愛度合★★★★★