原作にも、主演二人には全く興味なしで行定勲監督一点張り。
旬の人気俳優を配して、売れ戦狙いの商業映画を偽装しながらも、
陰でこそこそと作家性の強い、小技と好き勝手をしている二面性が好きな監督なのだ。
この「ナラタージュ」も松潤目当ての女子相手に成瀬巳喜男「浮雲」とビクトル・エリセ「エル・スール」
をぶつけてくるなど、「そら、知らんやろ」的な奇策にも程がある。
だからこの監督好きなんだけどさ。
今時珍しい畳敷きに襖、天井に中々点灯しない蛍光灯、縁側など古い日本家屋(そこに松潤が住む!)、
昔ながらの2本立ての名画座、寒々しい海辺の風景など細部にこだわった舞台設定や小道具、
陰影のある暗い画面の活かした撮影など巧みな演出には唸る。

ただ今回ばかりは主演者の力量が届かず。
松本潤は役柄的に常に目が死んだ、優柔不断でズルいダメ男なんで、微妙な表現力よりも
ダウナーでどうしようもない様でウジウジしてればよいので、それ程演技力不足は目立たない。
でも問題は有村架純の大根ぶり。
世間的には彼女こそ「出会うオッサンを全て狂わせるガール」なんだろうけど、
どうにも苦手で個人的には全く萌えないタイプ。
童顔で小柄な幼児体型、セミロングのサラサラヘアー、
上目遣いで目をウルウルさせて何気にアピールする様に
世のオッサンたちは庇護心をくすぐられるのだろうけどね。
坂元裕二脚本作品ですら破壊したその凄まじい演技力には驚愕する。
何故かネイティブな関西人なのに、非関西人が使うイントネーションのズレたパチモン関西弁にしか
聞こえないというトリッキーな演技を披露していた。
彼女の演技力では、道理でいいとか悪いとかを越えて、誰かを狂おしいほど好きといった普遍的な感情
への共感が全く生じないままに、傍観者として眺めているだけで微妙な感じ。
役柄的に必要不可欠な濡れ場での中途半端な脱ぎっぷりにも冷める。
逆に劇中では写真と僅か数秒しか登場しない妻役の市川実日子の燃える納屋を前にした
横顔での狂気の美しさには参った。あのショットこそ劇中のベストかも知れない。

原作である島本理生の生徒と先生の恋という少女漫画的な設定には、
家族は近親相姦にも通じる生理的な拒否感を感じると言っていたが、流石にちょっときつい。
流行りの設定なのか、広瀬すず版の類似作品も近日公開を控えており、
こちらも先生役が眼鏡のヤサ男というシンクロニシティさ。
でも割とありがちなネタの割には2時間20分という長尺。
ゆるやかで低い温度で燃えくすぶるかのような流れは体感時間的に苦痛とまではいかないが、
ちょっと語り口は緩い。
現在(映画配給会社に勤める社会人)から始まり、過去の回想シーン(大学時代)へ、
更にその回想の中にまた回想シーン(高校時代)が差し込まれるという入れ子構造の脚本は
混乱はしないけど、手法としては禁じ手だろう。
演技とストーリーテリングが空回りして、細部描写が結構好きなだけに、惜しいというか、もったない。


偏愛度合★★★