公開館数が少なく、前情報一切なしで劇場へ。
まずはタイトルが全く意味不明だった。スイスとも軍隊とも無関係。
本編を終え、ようやく気が付いた。
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コレのことなのね。
何でも役に立つ万能ナイフじゃないくて男(厳密にいえば死体だけど)だから
「スイス・アーミー・マン」なのか。確かに子供の頃、これ欲しかった。
本物は高くて買ってもらえなかったけど、それらしいパチモンは持っていた。
かと言って実際に使用した記憶はないけど、男子は持っているだけで嬉しいものだ。
しかし何とも人を喰った映画だ。
船が遭難して無人島で一人助けを求める孤独な青年はハンク(ポール・ダノ)の元に、
波打ち際に男マニー(ダニエル・ラドクリフ)の死体が流れつくのだ。
絶望の淵で、自ら命を絶つ決心で首つりを敢行していたまさにその時なのだ。
果たして現れたのは天使か、悪魔か?
そこからの先読み不可能な展開には驚愕。
死体から出るガス(要は屁)を動力として、沖へと繰り出し、海を渡り、何とか陸へとたどり着く。
挙句の果てに死体はしゃべり始め、孤独な者同士として二人は会話を交わすのだ。
いわゆる生きている死体であるゾンビなのだけど、ゆったりだけど会話もあり、少しは動くこともできる。
いったいこれは何を意味するのか?
勿論死者が生者を食らうゾンビものではない。
夢なのか、それとも主人公の死に間際の幻なのか?
そもそも、無人島で遭難したというのも、果たして現実なのか?
当然ながら、合理的な説明や理由付けは一切しない。
予想外の展開に身を任せて楽しむだけだ。
ハンクは内気で、根暗な青年。
毎日バスで出会う美しい女性に憧れながらも声をかけることが出来ずに、携帯で隠し撮りするのみ。
そんな彼が出会うのがマニーというスイス・アーミー・ナイフ並みに多機能を要した死体だ。
会話相手となり、ジェットスキーにも、浄水器にもなれる理想的な秘密兵器なのだ。
深読みするまでもなく、友人のいないオタクの妄想的なイマジナリーフレンドのメタファーであろう。
生きることに欠けた者同士が力を合わせて、人里を目指して、旅に出る。
道中、ごみを集めた小屋(二人の秘密基地か?)で記憶の一場面を再現するなど、
ミシェル・ゴンドリーなどでお馴染みのガラクタを集めたハンドメイドなガジェット劇が展開される。
お互い段々と友情が芽生えてくるのも当然。
旅の末、ようやくたどり着いたのが件の憧れの女性の家という唐突な展開。
一応はマニーは彼の妄想ではなく、実在する死体として処理されるが、最後までの説明はされない。
この物語自体が死に際のハンクが見た走馬灯の様な光景ともとれる。
まるで笑えないジョークの様な人を喰った話だけど、不思議と後味は悪くなく、
もう一回観てみたい衝動に駆られるのだ。

しかしダニエル・ラドクリフの染み付いたハリー・ポッター色を、
何としてでも払拭しようと足掻く、無茶な仕事選びと演技ぶりには笑える。



偏愛度合★★★