いい意味で闇鍋のような映画である。
何が出てくるか、何処へ向かっているのか全く予想がつかないまま圧巻の力強いで最後まで見せ切る。
元来映画ってのは見世物小屋なのだ。
スクリーン一杯に繰り広げられるありとあらゆる見世物を心ゆくまで堪能するのが本来の楽しみ方。
不条理な争乱が絶えない彼の国で、銃弾と弾丸が飛び交い、のんきにロバでミルクを運ぶ男がいて、
無造作に血が流れ、しばしば人が死にゆく、鶏が啼き、アヒルが飛び、蛇がうねり、羊が地雷で爆発し、
謎の美女が現われ、歌って踊ってのウエディングパーティーが爆撃と黒服男の襲撃で消え、
悪い星の下のカップルが行く宛てのない逃亡生活へ。もう何でもありの状態だ。
一応は三つの実話といくつかの寓話をミックスした創作とあるけど、もうそんなことは
どうでもいいくらいにリアリティを越えた奇想天外で圧巻のエネルギーに満ちたファンタジー。
舞台はユーゴスラビア解体以降、セルビア、クロアチア、ボスニアなど民族と宗教を巡り、
血で血を争う内戦が続いていた自国をもでるにしているのだろう。
これこそお馴染みのエミール・クストリッツァ節全開であり、この何でも出てくる闇鍋感は快感だ。
映画ってのは、だいたい男がいて、美女と銃弾を傍らに、
そこにいかした音楽をたっぷり添えれば傑作が一丁仕上がりなのだ。
まずは主人公を監督自身が演じる。
決して巧みな演技力というわけではないけど、飄々とした流れのままに生きる中年男の脱力感と
その奥底に秘めた愛に泣ける。
相方は至宝モニカ・ベルッチ。
肉は腐る寸前が一番美味しいと言われるが、この瞬間の危うい美しさが物語に華を添える。
個人的にはもうひとりのいかれたパンク娘である妹も捨てがたいが、二人に翻弄されながら、
ミュージシャンから戦場のミルク運びへ、更には美女を連れての逃避行へと狩りだされる。
隠れて、走って、滝に飛び込み、川を泳いで、ヤマを越えてひたすら逃げ続ける。
人の飽くことない諍いと不条理に満ちた戦争の愚かさと悲しさへの皮肉を、
カップルの逃避を通して描きながらも、その厳しい旅路と最後の顛末にはちょっと悲しくなる。
また監督自身が率いる「ノー・スモーキング・オーケストラ」の奏でるバルカン音楽が堪らない。
ブラスと弦楽器が奏でる哀愁のメロディーがどこか日本人の涙腺をしげきするのだろうか。
それに加わる圧巻のリズム隊のハーモニーには思わず劇場で足踏みしてしまう。
これだけ、テンコ盛りにいっぱい詰め込んでも2時間でまとめ上げて、
これまでの作品の集大成的な位置づけでありながらも、幅広い観客層が文句なしに楽しめる傑作。


偏愛度合★★★★