「ドゥミとヴァルダ、幸福についての5つの物語」を
コンプリートしたかったけど、結局上映時間が合わずにこれのみ。
タイトルは知っていたが、全く前知識なしだったので、予想外の物語に唸る。
ジャック・ドゥミとジャンヌ・モローで「天使の入江」とくれば、てっきりモノクロームな映像美で描く、
ロマンチックなラブストーリーかと思っていたら、ギャンブル映画だったのにはちょっと驚き。
冒頭のアイリスアウトでジャンヌ・モローのいつも通りの不機嫌そうな表情。
そのまま高速で海辺の風景をバックしながら1カットで引っ張る。
元々は金髪に染めていたのか、ハイキーなモノクローム画面で見ると白髪の様にも見えるジャンヌ。
もはや完全に賭博中毒。お金を儲けるためというより、勝ち負けのみに執着し、
南仏のカジノのあるホテルを転々とし、掛け金がなくなれば周囲の知人に借金を無心する。
銀行勤めながら、退屈な日常から逃避して悪友に誘われて、
ギャンブルへと手を出す青年と偶然にカジノで何度もすれ違い、行動を共にする。
麻薬中毒者の耽溺を描く映画と同じなんでしょうね。
麻薬なら快楽といった目的よりも、儲けるとこよりも、賭ること行為自体に中毒するのだろう。
個人的には賭博に興味がないどころが、積極的な嫌悪を抱き、
カジノ誘致なんてもっての外、合法とされているパチンコ屋すら毛嫌いする。
そもそも誰かと勝ち負けを争う、順位を競うという他者との関係性が大の苦手なのだ。
興味のない門外漢でも世界を疑似体験して、興奮させる娯楽性への変換が映画の持つマジックだ。
ところが「007カジノロワイヤル」、あるいは勝負事なら「ハスラー」などで描かれていた
勝つことへの飽くことなき貪欲さや頭脳戦ともいえる駆け引きの面白みは希薄。
本来ながらば、ジャンル映画として起承転結の物語を成立させやすい設定なのはず。
ルーレットでお気に入りの番号の賭け続けるだけだとか、
二人が同宿するのはタイトルになっている安宿というのもツキを呼ぶというゲン担ぎだけなのだ。
賭け事としての駆け引きの無さは、二人の関係性にも通じる。
恋愛もまた男女の切った張ったの駆け引きのはずが、
妙に二人とも相手への執着は薄く、淡々しながらも何故かギャンブルを通じてだけ依存している。
演出自体も同様なので、観客もまた二人の勝ち負けや関係性の行方への感情移入は希薄となる。
モノクロームで切り取られたカンヌにニースと南仏の60年代の風俗、風景描写は見事。
そしてヌーヴェルヴァーグのミューズともいうべきジャンヌ・モローの
男に媚びない、愛想笑いしないいつも通りのインデペンデントな女性っぷりも堪能できる。
偏愛度合★★★