実話ベースだけど、物語進行の視点を潜入者二人に置き、サスペンス映画として見事に脚色。
史実を基にして、複数の視点を交錯させる俯瞰的な視点ではなく、単一定点から描く。
主人公であるイギリスからの二人の潜入者が現地レジスタンス組織と協力しながら、
ハイドリヒ暗殺計画(エンスラポイド作戦)の遂行の過程を時系列通りに追っていく。
ナチスの組織内部や暗殺対象であるハイドリヒ自身は外側から見える客観的事実しか描かない。
当然ながら観客の視点が主人公二人と同調することになる。
占領下のナチスの圧倒的な軍事力と内通者や密告者を強いる状況下、
誰が敵か味方かすらわからない、先の読めないサスペンスフルな展開となる。
冒頭からタイトル後の暗転(黒)をバックにパラシュートでの落下時の樹に引っかかる音のみが響く。
やがて深夜の森へ落下後、合流する二人の青年の姿が現れるが、具体的な状況説明はない。
作戦の内容や背景は物語の進行に応じて徐々に明らかになってくるが、
冒頭では観客を突き放して、過剰に状況の説明補足をしない。
現地連絡員らしき者の裏切りといきなり四面楚歌な過酷な状況を追いやり、
視点への同調を強いる巧い演出だ。
レジスタンス組織とコンタクトを取れた後も常にこの緊張感が続く。
ハイドリヒ周辺をを密かに視察して、客観的な事実のみ収集して、
そこから隙を割り出し、暗殺計画そのものを一から立案して、実行していく。
レジスタンスの女性連絡員との作戦を忘れた淡いひと時で緩急を加えながらも、
過酷な占領下という先の見えない暗闇を暗中模索しながら物語は進む。
この演出により観客は、最後までキリアン・マーフィー派かジェイミー・ドードーナン派か
というタイプの異なる男前の好みの選択はあっても、この両者の視点に同調させる。
また二人が陽と陰、夢想的と現実的であったりと何かとキャラクターの対比となっているのも上手い。
作戦の過程を内部から追い、いよいよ暗殺実行へと至る。
確かに後半、特にラスト30分間は暗殺実行失敗以降の逃走劇と最後の教会に籠城しての銃撃戦など
ただならぬ緊迫感が続く、宣伝の煽り文句にも嘘がない傑作だ。
「ヒトラー暗殺、13分の誤算」という超ド級の傑作もあるが、今作もそれに匹敵する。
監督ショーン・エリスの名自体には記憶がなかったが、
「フローズンタイム」は時間を止めるというアイデア一発の低予算だけど面白い作品だった。
きっと彼は今後、アメコミやビッグバジェットの監督に抜擢されるにちがいない。

余談だけど、いつも気になるナチスも関連映画での言語の問題。
ドイツ人なのに英語で会話ってのが多い。
例えば「ヒトラーへの285枚の葉書」での違和感が記憶に新しい。
今回はちゃんとドイツ人はドイツ語を話していたけど、
現地言語(チェコスロバキア語?)は英語に置き換えられていた。
流石にリアリティに完全遵守して、潜入者もレジスタンスもチェコ語で会話ってのには
作劇上無理があるので、これは許容範囲として、脳内で吹き替えしておいた。


偏愛度合★★★★