山師川村元気、
素直に楽しむか?斜に構えるか?

勿論この場合の「山師」は本来の鉱山技術者や採掘請負人ではなく、
投機的な事業で金儲けを企てる者、転じて詐欺師などの否定的な意味合いで使用している。
常に金の臭いを嗅ぎつける流行りものへ眼鼻の利く山師はどの業界にもいる。珈琲業界にもいる。
芸能関連においては究極の山師といえば秋元康だろう。
でもあそこまで突き抜けるともはや金の臭いしかしないので、逆に盲者王として清々しいくらいだ。
個人的に苦手なのが川村元気と小山燻堂の二人。
共通するのが、その活動範囲が多岐にわたり、如何にも搾取目的の詐欺師然とした感じでなく、
どこか似非文化人を装っていることだ。
いや、実際の中身が伴っていないので、文化人を気取っているという表現が正しいか?
流行りものと話題の人を巧みに繋ぎ、組み合わせの意外性を演出しながら、
小綺麗にパッケージした商品を「はいどうぞ、お召し上がれ」とばかりに提供する。
勿論山師の山師故に、良質な作品である場合もあれば、空っぽ似非作品であることも多い。
庵野起用は吉と出た「シン・ゴジラ」は」好き。
何かを表現していなければ常軌を維持できないようなある種狂気に近い切実さはない。
芸術家至上主義というわけでないが、この切実さを伴う作品には、無条件に惹かれる。
今作も監督に原作、脚本、声優が誰であろうと、これは紛れもない川村元気の作品だ。
そして世間的にはどう判断されるのかは不明だけど、
個人的には「君の名は。」の柳の下の二匹目の泥鰌を狙ってはずした空振りのパチモンに感じる。

オリジナル岩井俊二作品をオンエアで見たかは記憶にはないが、ほぼリアルタイムで体験。
作品の出来具合うんうんよりも、奥菜恵のあの年齢だけの破壊力に参ってしまった方だ。
それをドラマ「モテキ」の1話で無断引用し、カット割りまで真似たという大根仁が、
映画用に脚本を書くと言えば期待せずにはおられない。
アニメーションの新房昭之は「魔法少女まどか☆マギカ」を観たくらいで専門外なので判断保留。
それに声の出演には広瀬すずと菅田将暉という一番旬の男女優を配するなんて、あざとい。
もはやクリエイトというより、単なるマーケティングとしか呼べないようなあざとすぎる手法が鼻につく。
予告編からして嫌な予感だかけだった。
日本橋に彷徨いこむと、のべつ幕無しに客引きするメイドカフェのおねえちゃんみたいな
制服姿(本当にあるの?)とリアルな地方都市の風景のようでありながら、ファンタジックでつくりものめいた
全てがキラキラと輝く、光学処理の動画に眩暈がした。やばい感じしかなかった。

あゝそのまんまだった。

冒頭こそオリジナルのストーリーをそのまま追うけど、そもそも元々は40分強の物語を
劇場用に90分に話を広げなければならないのだ。
引き算ではなく、足し算と追いう段階で流石の大根仁でも脚本家として分が悪い。
基本プロットを残しながらも、色々異物をぶち込み、希釈するのだ。
「もしもあの時……」という設定のみで、大したストーリーも説明もないのに、
共有記憶を持たない第三者である観客まで思わず胸が疼くような夏の風景の一幕に
懐かしさすら感じてしまうのがオリジナルである岩井版。このありえない普遍性こそが傑作の証。
でもそれだけでは尺が足りないので、
主人公たちを何度もタイムリープさせ、繰り返し時間を再構築できるご都合主義なガラス玉を導入。
そのガジェットが何なのかは説明されない。それは別に構わない。
でもそれ自体が物語で浮いている。余計なもので、物語を水増ししているだけで、異物感が濃厚だ。
プールでの競泳シーンとか、電車での駆け落ちとか細部は割とオリジナルに忠実に再現している。
本来の部分と付け加えた部分の接合が悪く、物語全体の唐突な展開や希釈感が残る。
声だけだが、広瀬すずの破壊力のは奥菜恵に迫るは勢いかも。
でも彼女以外の少年たちの、中学生のはずがまるで小学生のような幼過ぎるデザインがかみ合わない。
設定年齢を中学生へとあげたためのバランスの崩れか。
また逆光に花火、灯台の光と全編光学フィルターをかけまくったようなキラキラ感全開が絶えられない。
正直拷問級の作品だったけど、岩井版への敬意分★1個おまけ。

さて、山師川村元気、
映画ヒットで吉と出るか?大ゴケで凶と出るか?


偏愛度合★★