ホラーというジャンル映画の枠組みを借りた信仰についての物語。
よくよく考えると、神を信じるのも、霊や超常現象を信じるのも同じことなのだ。
現代科学では存在を証明できない形のない存在への崇拝であったり、
逆に畏怖や執着であったりするが、所詮は同じ穴の狢に過ぎないのだ。
ましてや仏陀への信仰には怨霊も口裂け女もついてこないが、
西欧におけるキリスト教信仰においては何故か神にはもれなく悪魔が付いてくるのだ。
一見対極の別物であるが、元々はひとつで、分離不可能な存在で、
信仰心が厚ければ、厚いほど、両者の存在を認めてしまう傾向がある。
キリストへ祈りを捧げる教徒と悪魔を崇拝する魔女とは全く同義なのだ。
だから今作は、単なるオカルト映画、ホラー映画としてとらえきれない。
人が持つ広義の「信仰」へのかから理方を問う作品なのだ。
単純に悪魔や魔女を肯定するのでも、否定するのでもない。
神以外へ身をささげる存在(個人、集団)がおり、
宙を舞う魔女らしき姿が映像として描かれるが、それが現実なのか、幻想なのかは明確にしない。
村落から追放され、人里離れた鬱蒼たる森の脇に住処を置き生活する家族たち。
神への厳格な信仰心を持ち、質素ながらも日々堅実に生活している。
やがてそれが少しづつ、外部からの何者かによって崩壊し始め、家族同士がバラバラになる。
そんな極限状態における、心理サスペンスとして描く。
日常に侵入するのが何者なのかは説明しない。
台詞やナレーションで余計な補足を加えず、ほぼ主人公家族の行動のみを追い、
ただなすすべもなくお互いが疑心暗鬼に陥り、関係性が崩れていく様のみを執拗に描く。
全編モノクロームかというくらいに色彩を落としたダークな映像が見事。
不気味に響く自然音とヒステリックな弦楽器の音楽が心理的に揺さぶりをかける。
ヒッチコックでお馴染みの演出だ。
作風は異端にして、同時に王道だ。
世界中の映画祭で称賛され、既に次回作も決まり世界が注目するというロバート・エガーズ監督の
名はこれからも憶えておいた方が良さそうだ。


偏愛度合★★★★