小さな珈琲屋を営んでいる。
基本、製造、調理、販売から経理や運営に至るまで全てワンオペが原則。
一切人は雇わず、何とか家族の手伝いのみで運営している。
家族ふたりでできることなんてたかが知れており、開店以来10年以上経っても大きくなりようがない。
ある意味同業者の成功譚という視点が加わるため、ちょっと身につまされる部分が多い。
巷ではピカレスクロマンと称されているが、「怪物か、英雄か」という宣伝キャッチコピーのように
マイケル・キートン演じる主人公の言動に同調できるかが評価の分かれ目になるだろう。
ある意味アメリカンドリームを体現した男の物語だ。
車でアメリカ中を走り、ドブ板を剥がすように、何でも売るしがない52歳の営業マンが、
世界最大の飲食チェーンの代表へと成り上がった成功譚だから大したものだ。
マクドナルドの誕生秘話ともいうべき物語なのに、同社の日本法人がタイアップはおろか、
作品の存在すらを一切無視しているのは、それがある意味黒歴史だからだろう。
マクドナルドを創立したのはその名の通りマクドナルド兄弟。
現在の店舗でも引き継がれているメニューをハンバーガーとポテト、ドリンクに絞り、コスト削減し、
高品質での素早い提供システムを確立したのはこの兄弟なのだ。
その斬新なシステムと店名自体をフランチャイズ化する際のどさくさに紛れて、
自称「ファウンダー創業者」として全てを奪ってしまったのがレイ・クロックだ。
顧客満足と品質を優先して、自分の目の届く範囲しか事業拡大をしない職人気質の兄弟と
飽くことなき利潤追求の為、不動産を巻き込んでの拡大化を図る資本主義的経営者としての
クロックの対立構造を物語は描く。さて、観客としてはどちらサイドに肩入れするかだ。
金の臭いがプンプンする、というより金の臭いしかしない乗っ取りともいえるえげつない手法だ。
ピカレスクロマンとして楽しむには、後者に視点を置き、アメリカンドリームの実現者として感じることだ。
このえげつなさを楽しめるかどうかなのだ?
どうも個人的にはこの金の臭いがするものを徹底して嫌う傾向がある。
一緒に営む家族も同様だ。
飲食業界で売上を拡大して、利益を増やすためには店舗の拡大しかない。
一店舗当たりではどんなに人気店であっても限界がある。
拡大路線は即ち飽くことなき利益の追及である。必然的に金の臭いが伴う。
金の臭いにはそれをかぎつけて、寄って来るハイエナのような輩がいる。
劇中ではフランチャイズ拡大時の不動産リースのシステムを提案した弁護士だ。
「きれいごとだと夢は絶対叶わない!」といわれても、
個人感情的には、愚直だけど堅実な兄弟の方に肩入れしてしまう。
痛みを伴わない口だけの経営コンサルタントに自店の運営診断を受ける気分になってくる。
だからピカレスクロマンとしては全然楽しめない。
主人公である悪漢の成功にはスカっと頷けないのだ。
現実逃避としての映画館のはずが、映画を観ていて、段々と息苦しさが伴ってきた。
娯楽というより、自分の店と商売のやり方における現実認識となり、ある意味勉強にはなったけど、
作品の良し悪し以前にこれはきついわ。
ちょっとえげつなすぎる。


偏愛度合★★★