「イット・フォローズ」を古典的な幽霊屋敷設定で名前の持つ呪術的な言霊モンスター化したホラー。
新旧ホラーのハイブリッド感が面白い。
ジャンル映画の場合、誰も見たことがない斬新な物語は理想だけれども、最近の「ライフ」のように、
既存設定を巧みに組み合わせ、その中で楽しませるという手法もまだまだ生きている。
何かが伝染して、現実世界へと侵食してくるというプロットは「イット・フォローズ」そのまま。
名前の意味合いを探ると面白い。
元来全ての事象に名前があるのではなく、名前のないものは存在できない。
対象に名前を付けることによって初めて存在が明確になるのだ。
また名前には呪術的な意味を持つ。
名前を知られると相手を支配できるという呪力としての側面がある。
ホラー映画での悪魔祓いでは主の御名によって、悪魔の固有名を連呼するシーンがお馴染みだ。
「スペル」という逆恨みで呪いの言葉を掛けられたヒロインの顛末という例もある。
日本で言う「言霊」という考え方の通り、口に出すとそれは現実となる。
名前は対象の認識であり、存在証明であり、支配なのだ。
「13日の金曜日」ジェイソンだって、「ハロウィン」ブギーマンだって、
殺人鬼たちは無名の殺戮者が人々に怖れられ、命名されることで、キャラクター化されるのだ。
その点では、その名を知るだけでも、考えるだけででも恐怖の対象となるのはホラーの王道設定だろう。

冒頭で過去の連続殺人事件の回想が物語の因縁話として提示する。
ショットガンで至近距離で撃たれた割には、全体的にゴア度は控えめ。
これは作品全体も通じて、直接描写やゴアは少なく、心理的な追い込み中心となっている。
その後、ある屋敷に引っ越してきた3人の若者。
白人カップルとその親友である黒人という割と普通の貧乏学生という感じ。PCを遵守?
家賃が安く済ませるためのシェアハウスとはいえ、よくも見るからに古びた家に引っ越してくるものだが、
やがて物音や影、古いコインなど、超常現象らしきものが現われる。
これもホラー映画の古典的な定石。
古い机の引き出しに封印されていた結界を破り、「バイバイマン」という名の存在を知ってしまう。
性行為を通じて「イット」が追いかけてくるのと同じく、一度その名を知ったら、それが近づいてくる。
事実知らないことは、起こっていないことと同義であるが、同様に存在そのものは名によって規定される。
また名前により因果関係がない第三者にも呪いが伝播、拡散していくのは「呪怨」のパクリか?
その名を知った者は幻覚を見始め、狂気に至り、殺戮を繰り返し、最終的に死に至る。
「イット・フォローズ」はその人物怖れる人物の姿で現れ、他者には見えないという上手い演出だったが、
こちらはバイバイマンというキャラクタ造形を決定づけたことはちょっと興ざめ。
修行僧のような頭巾の付いたロングコート姿、スカーフェイスで狂暴な目をしている類型的な悪魔像。
連れている黒い犬は冥界の番犬ケルベロスか?
現実と幻覚の境界が曖昧となり、心理的に追い込まれていく演出は面白かったが、ここでちょっと失速。
まあ、何らかのオチをつけて物語を脚本的に完結させたいという論理性故か、
悪の元凶(ラスボス)が登場してから失速するというのもこのジェンル映画の定石なんだけどね。
ツッコミどころも多く、既視感一杯のハイブリッド型だけど、掘り出し物なのは間違いない。


偏愛度合★★★★