何故か物語の途中で消えてしまった登場人物が気になる。
先日も「武曲」という映画でもそうだったが、ストーリー運びの結果、
あるところまで登場していた脇の人物がプッツリと消息を断つことがある。
勿論所詮は脇役なので、全体の流れさえ守れば、全てをきっちりフォローする必要性はない。
でも観客に略した、省いたその部分に気付かさせるのは、厳しく言えば失策だ。
脚本上あるいは編集上での齟齬であり、構成ミスと言ってもいいだろう。
時として瑣末な部分のミストーンノイズが作品全体のノイズとなり、バランスを崩しかねない。
基本的なストーリーはトンネルの内部の崩落により中間部分に車で閉じ込められた主人公の
サバイバル劇というワンシチュエーションのパニック映画だ。
短時間でミニマムな密室劇として絞り込む手法もあったのだろうが、娯楽作品として風呂敷をひろげ、
駆けつけたレスキュー隊のキャラクター描写、安否を気遣う家族の心中という定石から、
果てはトンネル建設を担った自治体の手抜き工事やら、
国民の生命の重さと国家事業との優先順位など背景となる社会まで長期戦で大きく話を展開させる。
社会背景には現政権への揶揄も含まれているのだろうか?
そんな劇中で消えた件の人物とは、閉じ込められたもう一台の車中で動けない若い女性だ。
レスキュー隊と主人公のやりとりに手詰まり感が出た頃、
観客を飽きさせずにここで起承転結とばかりに彼女が発見される。
やがて動けないまま彼女は死亡するのだが、携帯での母への連絡や飲料水と食料の分担、
シリアスな作風のコメディリリーフとも言うべき飼犬を割と細かく時間を割かれているのに、
死亡以降ぷっつりと描写が消える。
ラストの救出時にも犬は延々と描くのに、肝心の飼主である彼女には一切触れられない。
映画を終えてまず思ったのが「えええええ、彼女はいったい何処へ?」という疑問。
確かにどうでもいいけどそれが気になって仕方がないのだ。

いきなり執拗な突っ込みに始終してしまったが、作品自体が決して退屈な訳ではない。
アメリカ製ディザスタームービーが教科書とばかりに、コリヤン風味に味付けて、不屈の主人公、
家族、犬、果敢なレスキュー隊のプロフェショナリズムとあの手この手を駆使して、
観客を飽きさせない王道演出を繰り広げる。
何よりも私的に偏愛するペ・ドゥナさまが拝めるのだ。
設定上、登場時間が少ないのは仕方がないけど、
元々スタイル抜群で日常生活が不可能なハイファションも似合うけど、
主婦のありあわせの普段着なファストファションも全然違和感がない幅広さ。アジアの至宝だ。
男前ハ・ジョンウは途中からは暗闇で泥まみれとなるけど、巧みなひとり芝居で手堅く惹きつける。
細部の不整合と些か全体的に盛り過ぎた感もあるけど、
演出力にパワーがあるので十分に楽しめる娯楽作品だ。


偏愛度合★★★