※結論にふれるネタバレがあります。取扱いにはご注意ください。

前項「潜入者」の通り、古今東西の映画で繰り返される「記憶喪失」「多重人格」「潜入捜査」設定。
今回の多重人格もまさしく、主題は自己アイデンティティの喪失、分裂、変化であり、
第三者として物語を観察する観客を同調させて、欺き、意図する方向へと導く王道手法なのだ。
またひとりの役者複数の別人格を演じ分けるということ自体も映画、演劇的な根幹だ。
ただ余りにも映画的で今更ながら使い古された手法である故に
どうしても陳腐で月並みな展開へと陥る可能性が高い。
その点はシャマラン監督も自覚していたような気がする。
ましてや観客から毎度毎度大どんでん返しをお決まりのように求められる特異な監督だ。
「今回は何とどんでん返しがないというどんでん返しだ」と冗談のように揶揄される監督だから。
だから多重人格ものとしての展開そのものに、予想外で前代未聞の手法(それは相当困難だろう)
を折りこむのではなく、割とオーソドックスなサスペンス演出に徹している。
観客の期待い応えるために、
意図的に付け加えられたどんでん返しのためのどんでん返しが「アンブレイカブル」ネタなのだ。
そもそも実は2000年公開の映画の続編で次回作と併せて三部作を為すと
唐突に示されても違和感意外なにもない。
ブルースリ・ウィリスの同じ役柄設定での再登場も同様に力技すぎる。
何せ十数年も前の作品なので、幅広い観客層を考えれば、
いったい何割が理解できた怪しく、もちろんネタバレ禁止なので予習もできないので、
一部の身内受けのギャグでお茶を濁す感じも否めない。
個人的には、その取って付けたようなオチにはやはり否定的。

肝心の本編は割と想定内。
芸達者なジェームズ・マカヴォイが如何に23人を演じ分けるのかと期待していたら、
劇中で登場する人格は数人に過ぎず、肩すかしだったけど、
ヒロインのアニヤ・テイラー=ジョイは今後の価値う役が期待できそうな目力のある女優だ。
拉致した者と拉致された者という明確な善悪の線引きがくずれ、同調していく展開、
その先にあるラスボス的な存在など決して飽きさせはしない。
「ヴィジット」のよう細かい伏線や小技を駆使した、閉鎖空間でのアクション演出。
特異なキャラクター描写などに始終していたらとふと思ってしまう。


偏愛度合★★★