日本初のチベット映画らしい。
かの国で映画がどれ程根付いているのかは知らないが、娯楽のための派手な外連味や
技巧を凝らした演出はなく、巷にあふれかえる映画と比べると一見地味な作品に思われる。
何処までの伸びる大地とそこにささやかに生きるごく普通の人々の生活の日々が描かれる。
父と仲違いしている息子と働き者の献身的な妻とまだまだ母離れができない幼子、
やがて生まれてくる赤ちゃんと洋の東西を問わず普遍的な人生のひと幕だ。
風景を描くときはロングショット、人を描くときはミディアムショットでどちらもカットを割って、
編集で全体像を構築するのではなく据え置いた長回しに徹している。
季節の移り変わりに応じた、羊の放牧、種付などの農作業、
テントでの移動生活などの実際の日々を淡々とリアルに描写する。
大地、光、雲、雪、風など圧倒的な風景もまたリアルにせまってくる。
背景には劇音楽はなく、ひたすら風や草木の音だけが心地よいノイズとして流れる。
全体を通して、余りに奇をてらわないため、
国営放送局が秘境巡り番組で、現地の人に同行取材したドキュメンタリーかと思うばかりだ。
でも決して退屈で、ありふれた作品ではない。
チベットならではの豊饒な人と自然の営みは溢れんばかりに堪能できる。

余談だけれども、
仏教信仰への関わりで、チベット自治区と中国政府との関係性を
直接的な政治的非難という感じでもなくにおわせる。
何処であっても、国と国、人と人がいる限り、確執は生まれる。難儀やな。

偏愛度合★★★