全く想定外の映画だったが、かなり面白い。
そもそも今作の予告編やチラシ、ポスターには明らかな意図的なミスリードが仕掛けてある。
確信犯的に物語の主軸となる内容の一部を隠蔽しているといってもいいいだろう。
自分もそのことを知らずに、オリヴィエ・アサイヤス監督だし、監督作では前作からの続投で、
昨今の作品選択が素晴らしいクリステン・スチュアートということで迷いなしで劇場へ。
前知識なしで観れば、
開けてビックリ驚きモモノキと思わずベタな文句を叫んでしまいそうになったぞ♪
出来れば同じ驚きを体験して欲しいので、以下の文は読まない方が良いかもしれない。
ネタバレしないと内容に触れられないのだ。
ヴァンパイアヒロインという悪しき印象が付きまといどちらかといえば苦手な女優だったが、
ウディ・アレン作品といい、昨今の躍進からは目がな馳せないクリステン・スチュアート。
「アクトレス」から続いての共作なので、当然監督のお気に入りでアテ書きだろう。
パリでセレブの買い物の代行という仕事をするヒロイン。
登場するドレスに靴、アクセサリーはシャネル、カルティエ他超一流ブランドが提供している。
女性なら誰しも嘆息でそうな逸品だろう。
それに反して当人は、革ジャンにジーンズ、安っぽいニットとTシャツ姿で、ブランド袋を肩にかけて
スクーターで街中を駆け回り、服の調達のためにはロンドンまで遠征する。
宝を目の当たりにしながらも、試着禁止という足枷をかけられ、手に取ることしかできない。
演じる彼女がかなり魅力的。
表層化されるわかりやすい感情表現はなく、所在なさげで儚げな存在感として際立っている。
ここまでならば単純に物質的で、持つ者と持たざる者という社会階層的で
欲望まみれのリアリスティックな人間ドラマが展開されると思うだろう。その側面も間違いではない。
でも物語にはもうひとつの主軸が存在している。
彼女は代々霊媒体質で霊的な存在を感じ、見ることができるというのだ。
急死した双子の兄からのメッセージを待ち、古い屋敷に泊まり込み、闇に耳を傾けている。
相反する精神的で、論理では証明できない非現実的なスピリチュアルなドラマが待っているのだ。
この両者が絡み合いながら、物語は予想外の方向へと逸脱していく。
オシャレなアートでファション映画を期待して劇場へ来たら、
いきなり霊媒師や交霊術に幽霊とホラー映画でお馴染みが次々と登場するのだ。
そら、びっくりするわな。
このジャンル的な先読みができない、不可解な逸脱感こそが今作の大きな魅力となっている。
中盤以降、現実の存在なのか、霊的存在なのか正体不明の相手とLINEを交わし続ける。
コミュニケーションツールがLINEとうのもまた現代的で面白い。
正体不明を相手に殆ど彼女のひとり芝居のように物語は進む。
雇い主であるセレブ夫人はほぼ写真のみで存在は希薄でそれ以外の登場人物は少ない。
普段着からハイファションドレスへ、
物質的世界からスピリチュアルな世界へと禁断を扉を開けて進んでいく。
ユーゴ―の行った交霊術、ゴシックな雰囲気の漂う古屋敷などまるでゴーストムービーの
ような設定ながら、アメリカ製ホラー映画のような明確な善悪、現実と幻想といった対比構造はない。
生身であれ、霊的なものであれ、ひとつの世界に両立しながらも、常に隔たっており、
一方的なコミュニケ―ションを介して、対話するのみで、そこに明確な回答はない。
突き放したラストには絶対アメリカ人ホラー関係者には無縁のフランス映画らしさが見とれる。
偏愛度合★★★★★