イザベル・ユペールになりたいと思う。
彼女は1953年3月16日生まれなので64歳になったばかり。
彼女の様に年を食えたらと願う。
勿論自分は51歳のオッサンなので、干支ひとまわりの時を経ても、決して彼女にはなれない。
その事実が何よりも悲しい。
「3人のアンヌ」「アスファルト」「母の残像」と記憶にあるだけでも昨今の公開作は多数ある。
変わらぬ美しさというか、ずっと昔から余り容姿が変わらない印象だ。
1980年「天国の門」と1994年「愛・アマチュア」をリバイバルで観た時も、
確かに今よりは若いけど、どこか老成した雰囲気がある女性だ。
ただ正直なところ、一時期ミヒャエル・ハネケ「ピアニスト」「愛、アムール」などで
コワい演技派女優のイメージを植え付けれ、避けていたのも事実だ。
ところが昨今の方のぬけたようなナチュラルな美しさには降伏するしかない。
この「未来よ こんにちは」も同様に彼女の独壇場だ。
彼女の為の役であり、今の彼女にしか演じられない、彼女存在そのもの様だ。
「凛として生きる」という言葉がこれほど似合う女優は他にはいないだろう。
前作「EDEN」でもそうだったが、ミア・ハンセン=ラブは人生を俯瞰的に描く。
継続する人生の時間の断片を切り取り、並べていく。
エピソードとエピソードに意図的に時間の経過という行間を設け、全体像を見下ろして眺める。
それとは対照的なある時間、ある場所、ある人物たちの密に詰まった瞬間を映画的に
物語として語るという接写的な手法もあるが、
実は人の記憶自体が常に俯瞰的で結局は印象に残った断片しか残らない。
年単位で時間が経過した人生の断片が次々と並べられる。
そこにあるのは、ブルターニュの海、パリの街並、アルプスの風景などの豊かな自然であり、
そこにシューベルトやウディ・ガスリーなど音楽が添えられる。
宣伝にある「美しい自然と音楽で表現される人生の点描画」とはうまい言い回しだ。
彼女の高級品ではないけど、カジュアルで個性が感じられる日常的な着こなしも見事だ。
思わず真似したくなるけど、悲しいことに自分はオッサンだった。
そしてモデルの様に優雅に舞うというより、常にドタドタとヒールの音を響かせながら歩く。
この自然さが素晴らしいのだ。
配偶者の浮気、離婚、孫の誕生などいろいろなことがあるけど、それでも人生は弛まなく流れる。
まさしく「C'est la vie.」というフランス人が常に口にする、
「これが人生さ」「人生って、こんなものさ」という言葉通りの映画だ。
余談だけど、村上春樹訳ならばこれが「やれやれ」になるんだろうな。
偏愛度合★★★★