主人公や舞台となる世界観の詳細を映像や音響で描きこむことは
その物語世界にリアリティを生む。
反面情報過多で観客の鑑賞の妨げともなりうる。
また物語の語り口(ストーリーテリング)のドライブ感が物語を観客を巻き込んで疾走させる。
尺という時間的な制約がある映画では細部描写とストーリーテリングは時として相反する。
結局繰り返して観る心に残る映画って、この采配バランスが巧みな作品だろう。
前作「夏の終わり」と同じ文芸官能路線。
どちらも共通して閉じた世界観での過剰なディティール描写がうまく、
何よりも俳優(というより正確には女優)を鑑賞する映画。
細部描写は前作が勝る。室内という人工的な閉鎖空間の細部、
映像や音楽での切り取りが凄まじく、参った。
今回はどうしても流氷や風景という生々しい自然という相手にしているだけに作り込みが弱い。
それくらい自然描写が圧倒的な力があるという証なのだけど。
さて女優。
どちらも台詞回しや息遣いに独特な間合いが特徴的で似ているかも。
脚本や机上の演技理論では真似ができない当人固有のヴァイブレーションみたいなものか。
この監督のそのへんの女優選びには一貫性がある気がする。
そして二階堂ふみは圧巻。
物語や設定にまとわりつくモラルや道徳観を捨て、彼女だけ眺めていればよい。
浅野忠信は何をやってもいつもの浅野忠信なのでもう気にしないでいい。
撮影時に18歳ということだが末恐ろしい女優だ。
「ヒミズ」で知り、気がつくといろいろな映画でしばしば脇で少々ややこしい少女を演じていた。
半開きの口元や台詞と台詞の間合い、息遣い、視線送りなど本当にお見事。
いやいや、一生ついていくことを決心したよ。
しかし原作は未読だけど、細部を相当端折っている気がする。
主人公の閉じた世界中の流れのために、映画的な物語のドライブ感や整合性を捨てている。
過程はほぼやりっぱなし。
そこを突っ込むとしょうがないけど、細部のためにストーリーテリングは放棄している。
偏愛度合★★★★