私のクラスメイトは約半分はブラジル人で、約半分は韓国人だった。みんなが四つのテーブルに分かれて席に着くと、先生は私に名前を尋ね白板に名前を書き足した。私のほかにもう一人新しい女の子がいた。彼女の名前はマリアで、やはりブラジル人だった。

「ハイ。ダニエルよ。私があなたの新しい先生。」

 私はうなづいた。

 ダニエルはものすごく若かった。おそらくは20代後半。ああ。彼女が私の先生。私は首を横に振った。その当時バンクーバーが私にとってそうであったように、ダニエルはとても冷たく思えた。

 ともあれ、今このクラスで話し合われていたことは未来についてだった。ダニエルは私たちに、22世紀の世界ではどんなことが可能になっているかについて話し合うようにいった。
「恐竜をよみがえらせることができるかも知れないよ。」
 私は愛想よくいった。
 アリベックは流し目で私を見て、小さく首を振っていった。
「何で恐竜をよみがえらせたいんだい?それがなんだっていうんだい?」
 私が何か言い返すまえに、フェルナンドがしたたかに口をはさんだ。「じゃあ君は何で恐竜をよみがえらせたくないのさ?」
 彼はけらけら笑っていった。これには私たちも笑ってしまった。
 しかし、私の回答は実際的をはずしていた。彼らがここ一週間話し合っていたことは生物工学やクローン、コンピューターチップや人工知能などで、大事なのはそれが実用できて役に立つかどうかだった。
 



 いずれにしても恐竜たちは永久に時の地層にうもれてしまい、現時点では復活させることは不可能とされている。

 そう。

 私はバンクーバーではホームステイをしながら(あるいはかすかにオリンピックの余韻に浸りながら)地元の語学学校に通っていた。私のようなごく短い期間を使って行く場合、たいていの人は大学ではなく英語を母国語としない生徒が行く語学学校に通うことになる。


 私の学校は少なくとも二つのビルを借りていて、私の教室は別塔といわれるところにあった。

 はじめて恐る恐る教室をのぞいたとき、そこには一人の女の子がいた。私は彼女にぶっきらぼうに挨拶して自分の席を決めた。(別に悪気があったわけではない。いつもの悪い癖だ。つまりバターのようなものだ。冷蔵庫から取り出したバターは、常温に戻るのにしばらく時間がかかる。もっともそういう意味では、私はバターよりもずっとたちが悪かったが。)


 クリスティー。それが彼女の名前だった。(クリスティーは彼女の英語名だ。彼女は韓国人だった。)


 それから男の子たちが入ってきた。

「ハーイ。」と男の子たちは私に挨拶した。

「フェルナンドだよ。名前何ていうの?どこから来たの?」

 フェルナンド。彼は私の真正面に座り、長い足をもてあましながらいった。私は『まりこ』とできるだけわかりやすく(かつ頭に残りやすいように)発音した。そう。彼はハンサムだった。わたしがどれだけみんなの頭に残るように名前を発音しても、彼のハンサムな顔よりも長く残るかは疑問だった。

「彼はアルベルトでブラジル人だよ。で、君の隣に座ってるのはアリベック。みんなブラジル人だよ。」

 そう彼は愛想よくいった。アリベックは静かに首を横にふった。「冗談はよせ、フェルナンド。」

 冗談。そう。アリベックはブラジル人ではなく、カザフスタン人だった。

 

 そんな感じで、私のクラスはスタートした。

 始業の十分前に教室に着くと、そこにはキューとクリスティー、グスタボ、そしてアリベックがいた。アリベックはいつもの気取った調子で、ポケットに手を突っ込んだままどこか遠くを見ていた。が、ふいに思いがけないことを口にした。

 『もう今日は僕はここにはいない。』


 

 まさか、そんなと私は思った。なぜなら私たちはまだわずか二週間しか一緒にすごしていなかった。二週間。彼は六月までここにいることになっていたではないか。

『クラスが変わった。一つ上のクラスにいくことになった。だからもう、ここにはいないんだよ。』

 彼は物静かな、そして淡々とした口調でいった。私はもはやありえないという顔で彼を見た。


 

 私はレベルアップテストについては知っていたし、実際フェルナンドがそれに通って今週からクラスが変わることを知っていた。それを聞いたとき、私は穏やかなショックを受けた。



 しかし、実際にはもっとすごいことが起こっていた。

 ダニエル(私のクラスの担任だ)によると、えみこは先週の金曜日に卒業し、アリベックだけではなくスンジーもメイソンも、そしてボーイフレンドのいない私をみっともないといって笑ったジェイでさえもフェルナンドと同じ理由でクラスが変わったのだという。


 アリベックは気取り屋でめったに感情を外に出さなかったが、彼は最後に私達にさよならをいいにきたのだ。





 私達はみんなカードゲームが大好きだったので、私は月曜日に新しいゲームを披露しようと思っていた。そしてどうやったら国籍がバラバラの彼らにルールを理解してもらえるだろうかと一晩中ベッドの中で考えたのだ。


 土曜日の夕方に、私は新しいカードを買おうと店にいった。だが、あいにく店はいつもより早く閉まっていた。

 私がもはや、そうする必要はないのだとでもいうように。



 

 私がよくされる質問の一つは、何故バンクーバーを選んだのかということだった。たいていの場合、私は笑顔でオリンピックのことや気候のことを話すが、もっと英語が上達して私たちの中が深まってきたら私はこう答えたかも知れない。いや、あるいは何もいわなかったかも知れない。何にもまして重要なことは、口に出していうべきではないからだ。(スティーヴンキング作、スタンドバイミーより)だから私は、そのことについては静かに口をつぐみバンクーバーの薄青い空を見ていることだろう。


 三年前に、私はシドニーの町を訪れたがそれは今でも私にとって人生最高の思い出だ。世界で一番美しい港町。魔法のような言葉だがそれは本当だった。

 バンクーバーとシドニーの唯一の共通点は、そこが港町だということだった。(もう一つ付け加えるとしたら、どちらもオリンピックの開催都市だ。)だから私は、ある程度バンクーバーにシドニーのような洗練された商業の町をイメージしていた。だから、来た。


 では、実際はどうだったか?それは、これからいくらでもお話できる。


 だから次は、きっと皆さんにも少しはバンクーバーについて知ってもらうことができるだろう。

 特に誰でも口をそろえていうのはバンクーバーは自然と調和した、清潔でことに美しい町ということだ。もちろん私はそれが間違っているとは思わないし、控えめにいってバンクーバーは清潔で見方によっては美しかった。ただ実際はこの街は私たちが思っている以上に複雑な問題を抱えていて、同じ大都会といわれるような大阪や東京とはどうしても似つかないところがあるというだけの話だ。

 つまりバンクーバーは移民の街だったが、民族の数だけその国の言語を話す人がいた。カナダはいわゆる英語圏といわれる国だが、バンクーバーに限っていえば英語を第一言語とする人はそこまで多いわけではなかった。実際私の家族はフィリピンからの移民だが、彼らは基本的には彼らの国の言葉で話す。英語は彼らにとっては第二言語で意識して初めて出てくるものだ。街を歩いていても電車に乗っていてもいきなり韓国語や中国語が聞こえてくるということがよく、あった。