●死者にたいする最高の手向けは、悲しみではなく感謝だ。
レーントン・ワイルダー
……小学生の頃、僕の祖父は亡くなった。原因はガンである。
一度手術をしたものの、転移していたらしい。
無神経で、無関心な僕はそんなことも知らずにノウノウと生きていたのである。
ある日の祖父は甘いものを珍しく口にして、食欲もあった。だから僕は祖父がよくなっているとばかり思っていた。
でも、そんなのは夢物語だった。
その日の夜、僕は両親に起こされたのである。
「病院に行くよ」
寝ぼけた僕はとりあえず頷いて車にのる。
病院では従兄もいた。
何がなんだかよくわからなかった。
病室に入ったとき、初めて僕は気付いたのである。
祖父は昏睡状態になったいた。
家族はみんな泣いていた。
なのに、僕は泣けない。
みんなが泣いているから泣いていた。
僕はどうして泣けないの?
僕は人間じゃないの?
悪魔なの?
自問自答を繰り返した。
そして、疲労した僕はうたた寝始めた。
信じられないけどこんな夢を見たんだ。
僕は幼児なっていて、祖父がいつもどおり、イスに腰かけている。
僕の身体は氷のように冷たくて、祖父に
「寒い、寒い」
と泣きついた。
すると、祖父は無言で立ち上がり、僕にココアをつくってくれたのである。
とても丁寧な作り方だった。
ミルクは火と時間をかけて暖めて、ココアパウダーはお湯で少し溶かして微量の塩を入れる。
そんなココアが僕に手渡されたのである。
夢の中なのに、ココアは暖かい。甘くて、ちょっとしょっぱい。
でもそれがおいしかった。
「ありがとう!」
そういうと、寡黙な祖父は静かに笑った。
そして僕は目を覚ます。
父が僕の肩をゆすっていたからかもしれない。
寝ぼけ眼のまま、僕は祖父の姿をみた。
安らかな笑顔で祖父は亡くなっていた。
そんな祖父を見て僕はなぜか心の中で口ずさんでいたのである。
「ありがとう」
瞬間、僕の眼から、暖かくて、しょっぱいものが流れた。
それは夢の中のココアに混じっていた風味のようだった。
以来、僕は「ありがとう」というのが口癖になった。
レーントン・ワイルダー
……小学生の頃、僕の祖父は亡くなった。原因はガンである。
一度手術をしたものの、転移していたらしい。
無神経で、無関心な僕はそんなことも知らずにノウノウと生きていたのである。
ある日の祖父は甘いものを珍しく口にして、食欲もあった。だから僕は祖父がよくなっているとばかり思っていた。
でも、そんなのは夢物語だった。
その日の夜、僕は両親に起こされたのである。
「病院に行くよ」
寝ぼけた僕はとりあえず頷いて車にのる。
病院では従兄もいた。
何がなんだかよくわからなかった。
病室に入ったとき、初めて僕は気付いたのである。
祖父は昏睡状態になったいた。
家族はみんな泣いていた。
なのに、僕は泣けない。
みんなが泣いているから泣いていた。
僕はどうして泣けないの?
僕は人間じゃないの?
悪魔なの?
自問自答を繰り返した。
そして、疲労した僕はうたた寝始めた。
信じられないけどこんな夢を見たんだ。
僕は幼児なっていて、祖父がいつもどおり、イスに腰かけている。
僕の身体は氷のように冷たくて、祖父に
「寒い、寒い」
と泣きついた。
すると、祖父は無言で立ち上がり、僕にココアをつくってくれたのである。
とても丁寧な作り方だった。
ミルクは火と時間をかけて暖めて、ココアパウダーはお湯で少し溶かして微量の塩を入れる。
そんなココアが僕に手渡されたのである。
夢の中なのに、ココアは暖かい。甘くて、ちょっとしょっぱい。
でもそれがおいしかった。
「ありがとう!」
そういうと、寡黙な祖父は静かに笑った。
そして僕は目を覚ます。
父が僕の肩をゆすっていたからかもしれない。
寝ぼけ眼のまま、僕は祖父の姿をみた。
安らかな笑顔で祖父は亡くなっていた。
そんな祖父を見て僕はなぜか心の中で口ずさんでいたのである。
「ありがとう」
瞬間、僕の眼から、暖かくて、しょっぱいものが流れた。
それは夢の中のココアに混じっていた風味のようだった。
以来、僕は「ありがとう」というのが口癖になった。