🍇 第三章:熟成の音、秘めたる想い🍇
季節は巡り、アリスが収穫し、発酵を終えた新しいワインは、今、
地下室の樽の中で静かに眠りについている。
1. 地下室の静けさと熟成の香り
アリスは、日課のように地下室へ降りた。
この空間は、以前は騎士リッシュモンを匿い、古いワインを発見した場所であり、
今は彼女の新たな希望が息づく場所だ。
地下室は相変わらず冷たい土の匂いがするが、
その中に、樽の小さな栓の隙間から、新しく造られたワインの香りが
わずかに立ち上っている。
それは、収穫したての野性的な果実の香りが落ち着き、
代わりにバニラやクローブのような、甘く丸みを帯びた芳香へと
姿を変え始めている証拠だった。
アリスは樽に耳を当てる。もう、激しい「ゴボ、ゴボ」という発酵の音はしない。ただ、液体が静かに揺れ、樽の木目が微かに「ミシッ」と鳴る音が聞こえるだけだ。まるで、ワインが長い時をかける準備をしながら、深い呼吸をしているかのようだ。
2. 新しいワインの試飲
アリスは恐る恐る、樽から少量の赤ワインをグラスに注いだ。
色はまだ若々しい鮮やかなルビー色をしている。口に含むと、最初に感じるのは、カベルネ・ソーヴィニヨン由来の若く、少し荒々しいタンニン(渋み)。
しかし、その奥には、ブラックベリーや熟したプラムのような
深い果実の凝縮感が潜んでいる。
「まだだわ…」
アリスはつぶやいた。あの古いワインが持っていた、舌触りの滑らかさ、そして鼻腔の奥まで広がる熟成の深みには、まだ遠い。ワインが真の「いにしえの味」に到達するには、長い時間と忍耐が必要なのだ。
3. 騎士への想いとワインの約束
アリスは、地下室の片隅に置かれた古い木箱に目をやった。以前、リッシュモンと分かち合った、あの奇跡のワインが入っていた箱だ。
リッシュモンが去ってから、もう数ヶ月が経つ。
彼が言っていたイングランドとの戦いはどうなっているのだろうか。最近、村の者たちが「オルレアンの乙女」について囁いているのを聞いた。
傷を負い、孤独を感じていた彼が、今、希望の象徴である乙女と共に、フランスのために戦っているのかもしれない。
アリスの胸には、リッシュモンへの淡い恋慕と、彼の身を案じる深い心配が交錯していた。彼女は、グラスに残った新しいワインをそっと見つめる。
「このワインが、貴方が飲んだ古いワインに匹敵する味になる頃、きっと貴方は帰ってくる。」
それが、アリスが心の中でリッシュモンと交わした、秘めた約束だった。

ワインの熟成と、騎士の帰還。どちらも、今この瞬間は掴めない、
静かなる時間の流れを待っている。
アリスの孤独は続くが、地下室に響くワインの小さな呼吸が、
彼女の心をそっと温め続けていた。





















































