きまぐれな秋雨、でも過ごしやすい季節になってきました。
「つるべ落とし」といわれるように、すっかり日も短くなり、ストンッと日が暮れます。
「○○の秋」といわれるように、色々な「欲」のわく季節。
「食欲の秋」と「芸術の秋」と両方満たしてくれるような場所として、東京・河田町のレストラン「小笠原伯爵邸」をお薦めします。
<現在の外観>(東京都広報より)
この建物は、1927年(昭和2年)、礼法の宗家で有名な小笠原家第30代当主の小笠原長幹伯爵の邸宅として創建されました。
戦後は米軍に接収され、その後は東京都の所管として使用された後、老朽化が進み、しばらく使われていない時期もありましたが、その後、民間に貸し出されて、大改修後、このレストランとしてオ-プンしたのが2002年の6月です。
<改修後の現在の外観>
自分が仕事として関わっていたのは、この建物が東京都所管として、老朽化により使われていない「廃屋」同様の時期から、レストランとして大改修される前までのことでした。
そもそも縁といえば、この時期は以前に勤務していた設計事務所において、明治~昭和初期頃に創建した「文化財関連の建物」の修復設計に幾つか関わっていたこともあり、その実績から、この建物の劣化調査や修復設計等に関わる機会が持てました。
調査をしている時点で老朽化は進み、その後、何年も活用法も定まらずに使われていなかったので、朽ち果てて「取り壊し寸前」でもありました。
当時はにわかに「ミステリ-スポット」のブームもであり、この建物も「おばけ屋敷」の如く、多数の侵入者に荒らされ、下記の写真のように外壁の装飾タイルも所々欠けている状況でした。(老朽化とともに、一部はもぎ取られていたものと考えられます)
<改修前の外観>
(劣化は著しい状況でした。)
この建物は、壮麗なインテリアとは裏腹に、東京都に所管されていた時には、児童相談所や女性センタ-等の「駆け込み寺?」のような「非公開の隔絶された施設」として使われていた時期も長く、十分なメンテナンスもされることなく、老朽化も進行していました。やはり、建物は使われない状態が長く続くと、尚更に老朽化されていくものです。
劣化調査をしている時には、作業着にマスクや軍手、時には長靴をはきながらの実測作業でした。
<改修前のロビ->
(塗装は剥げ、壁紙も剥がれ落ちていました)
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<修復後のロビ->(東京都広報より)
(塗装替え、壁紙は新調され、照明器具も修復された)
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ようやく、劣化調査、改修設計も終わり、改修工事の積算をして、予算要求をしている頃に、世の中は「バブル崩壊」、急速な財政悪化で、文化事業費は、大幅に削減され、事実上の「棚上げ」、いわゆる事業が「凍結」されました。
それから、数年間、他の仕事で東京都に行く度に、改修が無理ならば、「応急処置」の必要性を提言しながら、最低限の応急処置を繰り返しながら、数年が経過していました。
<応急処置>
(ガラス破損はベニヤで養生、壁・天井の劣化は進んでいました)
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改修事業の「凍結」から数年が経過し、「おばけ屋敷化」が加速する中、世の中も一向に景気は上向くことなく、この建物の「取り壊し」、「土地の売却」も検討される中、この頃から『PFI事業』(簡単に言えば、民間による資本或いはサ-ビスによって公共施設の活用をしていく取り組み等)の試みが始まりました。
例えば博物館の汚い食堂が民間のホテル系レストランがテナントとして入り、オシャレなレストランにリニュ-アルされる等、今では、「概念」だけでなく、「目に見える形」にもなっていきました。
この建物も、そのような概念の一環として、民間事業者に安価で貸し出し、その民間の資本によって、建物の改修と共に活用を委ねるという方向性で進みました。
自分は、その時の「事業者選定委員」を任され、事業コンペの要項作りや、実際のコンペの選定委員もやらせて戴く機会を得ました。
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コンペは民間の数社が手を挙げ、様々な提案の中、原宿の「バンブ-ハウス」というレストランの創業者でもある現在の事業者が当選し、約10年、今でもレストランとして「活き活きと」活用されているのは喜ばしい限りです。
できれば、修復の「設計者」として関わりたかったのですが、世の中の景気が暗転して凍結され、取り壊しの危機にもありながら存続し、「黒子」であっても、活用への橋渡しに少しでも関われたことは幸運でした。
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つい先日、このレストランに久々に訪れ食事をしてきました。
<久々に訪ねた、現在の外観>
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食事については、スペイン料理で、やや創作性に富んだものなので、人それぞれ好みにもよるので、評価は変わってくるかと思いますが、自分的には味も量も、盛り付けも「満足」です。
<その日のコ-スメニュ->
両親の「結婚記念日」だったので、メッセ-ジ入りのケ-キをサプライズで注文し、喜ばれました。
<メッセ-ジ入りケ-キ>
そんな注文も受けてくれるこのお店は「粋」です。
食事代は、それなりにお金は掛かりますが、この壮麗な「空間」込みで、ゆっくりと食事を味わえるとすれば、「代価性」は高いように思います。
「記念日」には、特にお薦めです。
レストランは基本、要予約ですが、手前側にある喫茶コ-ナ-は、ふらっと突然出かけても、ゆっくりお茶飲むことができます。
四季折々、いつの季節でも楽しく過ごせる空間です。
是非、一度訪れてみてください。
詳細はHP参照ください。
<旧小笠原伯爵邸HP>
また、機会があれば、「建物探訪、そして少しだけ観光の旅」を続けていきたい。。
(貧乏暇なし!で、しばらくまた「山籠り」になりそうですので、ペタ返しの遅れ等をお許しください。)