初出:2005年06月26日

この記事は、旧サイト より移動してきたものです。



ゲームクリエイターが有名人化するのは、

昨今ではもう当たり前のことになってしまった。



古くは宮本茂、中村光一にはじまり、

最近では新ハードの立ち上げに伴って、

多くのクリエイターが自分の名前をつかって

それを盛り上げようとしている。


とりわけ、Xbox360はすごい。

Xboxの時に著名メーカーを招いたにも関わらず、

ソフトの質の問題で失敗した反省からだろうか? 



著名なクリエイターが何人も名乗りをあげ、

「今度は期待できるかもしれない」と考えている人も

少なくないのではないだろうか。



遊ぶ立場からすれば、

実態の見えないメーカーを信用するより、

**を作った○○の作品だ!」といわれた方が

なんとなく信じられる気がするし、

なによりそうやって騒いだ方が楽しい(笑)。


そういうわけで、クリエイターのタレント化は、

けして悪いことじゃあない。






でも、このタレント化は、実になっているんだろうか?





クリエイターが著名人化することには、

いったいどんな利点があるのか。

その弊害はないのか。

そして、Xbox360がやっているようなアピールは、有効なものなのか。


今日から少しのあいだ、そのあたりを考察してみたい。



○ クリエイターって、ナニやってるの?


まず、以下の点から考えていきたい。


そのゲームは、本当にその人が監督したから面白いの?


ノッケから、身もフタもない話である(笑)。

だが、この問題を語る上で、避けて通れない話題でもあるので、

最初に触れておきたい。


当たり前だけど、ゲームの出来は、

作成者の能力に依存する。

優秀な監督、そうじゃない監督、

いろんなクリエイターが、業界にはいる。


でも、その監督の能力は、

実際にどこまでゲームの出来に影響するんだろうか?

優秀な監督が作ったゲームは、良作ばかりなんだろうか?


ゲームは、本当に多くの人が関わって作る。

そして、その中で、監督者の占める割合ってものは、

いったいどれほどのものだろうか?



過去には、監督が、ゲーム全体を見て、

進路を定めることができた時代もあっただろう。

その当時は、監督の能力がダイレクトに作品に影響した、

と考えることもできるかもしれない。


でも、今も、果たしてそうなのだろうか? 

本当に、その人のした仕事は大きかったのか?


いや、そもそも、著名になったクリエイターが

作品を作るうえで「何をしていたか」って、

古今、ほとんど触れられていないじゃないだろうか。(*1)



「過去に有名作品に関わった」=その人が大きな活躍をした、とは限らない。

だいたい、有名メーカーに勤務している人を捕まえて、

過去に関わった作品を聞けば、

有名作品の1つや2つ、出てくるものなのだ。

実際、ワタシだって、「関わった作品は?」と言われれば、

結構な作品の名前がでてくる(笑)。


「監督の過去の作品」はアテになるとはとてもいえない。


これは実例ですけど、過去に、「予算管理と対外折衝」を主として

任じていた人物が「ある作品の監督である」として

紹介されているのを見たことがある。


むろん、その人物の能力を疑うわけでもないが、

「この人が指揮をとったから名作になった」という理論を聞けば、

「ちょっと待て」と言いたくもなるだろう。


今、話題に上っているクリエイターたちが、

実際にどんな活躍をしたのか。

そんなことは、ぜんぜん公表されていないし、

公表されている部分だけとっても、実態はとてもつかめない。


Genjiの岡本吉起氏なんて、「ゲームクリエイター列伝」だと

かなりの悪役扱いになってたぞ(*2)? (笑)

この本の内容は無論ネタだろうけど、

実際にそういう人たちがどこまでの活躍をしたのかは、

霧に包まれていると思うわけだ。




もちろん、たいていの場合においては、

作品に現れる影響は、監督のものが一番大きいですし、

失敗した責任などは、監督にかぶせられます(笑)。


だけど、出来上がったものだけ見れば、

必ずしも監督の能力と作品のレベルは直結しないことも多いのです。


「監督の能力が作品に正しく反映されるには、いくつもの条件を満たす必要がある」

というあたりですかね。



じゃあ、監督名を出してのアピールは正しくないのか? 

監督の能力を正しく生かすための条件とは、いったい、なんなのか?


……以下、後編につづきます。




*1 例外もアリ。小島秀雄氏と桜井政博氏、枡田省治氏あたりは、

製作過程で自身が何をしたかが明確に語られている。

ゆえに、上の話題からは、こういった方々は除外される。

だけど、いま話題に上っているクリエイターが、

どんな仕事をしたのかって知ってる人はそんないないよね。


*2 数年前にマガジンに不定期連載されていた漫画。

内容はかなりぶっとんでいたので、信憑性は低いと思う。

「バイオハザードを作った男たち」の回で、

バイオの操作系をボロクソにけなす役を演じたのが、岡本氏。

作中ではほぼ悪役。


おまけ

本編にあわせて、「メタルマックス」制作後に行われた、

桝田省治氏の発言を引用してみたい。原文はこちら


 プレイした方ならご承知でしょうが、MMシリーズはリンダと
同様にグラフィックは地味ですが、内容の濃さは鬼気迫るモノが
あると思います。
 こういう密度は、ゲームデザイナーひとりが優秀でも実現しません。
 開発陣全員がそのゲームのおもしろさの質に強く共感していなければ
到底達成できません。
 そういう意味では、モリモトナオキさんがMMシリーズを制作した
と自信をもって言える人間のひとりであっても、ゼンゼンおかしく
ありません。
 現に僕も「天外2を作ったのはオレだ!」とか言いますし(笑)。


文中の「モリモトナオキ」は、MM制作資金を集めるという名目で詐欺を働いた人物。

誰がどんな活躍をしていたか、とてもわからん、という例ですね。

モリモト氏がどうだったかはさておき、

「誰のおかげ」でゲームがその形になったかはとうていわからない、という例です。

ゲームのタイプによっては、ファミコン時代でさえ、こんな感じだったわけです。