平成 28 年 10 月 17 日より、京都大学大学院工学研究科材料工学専攻から東北大学金属材料研究所・生体材料学研究部門に着任しまし。部門名称は将来的には、承認されれば「構造制御機能性材料」に関する研究部門に変更する予定です。私はこれまでに、歪を伴う相転移ダイナミクスに関する研究テーマを中心に、種々の興味深い相転移現象の解明と組織制御に関する研究を、基礎から応用にわたって行ってきております。具体的には、固体‐固体相構造相転移の組織形成ダイナミクスの解明と外場印加による組織制御に関する研究、メガヘルツ振動を用いた金属ガラスのベータ緩和機構の解明とガラスの構造不均一性に関する研究、蓄電池系におけるキャリアイオン脱挿入に伴う相転移と歪効果(電極材料組織学の構築)、光誘起相変化材料の高速アモルファス化機構の解明などです。今後、新たに研究部門を構築するに際し、2007 年頃から取り組んでいるマグネシウム蓄電池や二塩蓄電池系のエネルギー材料研究開発を継続するとともに、私のライフワークである「相転移と歪」を基軸にし、材料組織構造を制御することにより新たな機能性(力学特性、電気的あるいは光学的性質など)を発現する新材料を、分野横断的に研究開発することを目指していきたいと考えております。今後ともご指導・ご鞭撻のほど、何卒よろしくお願いいたします。
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宇田先生と市坪の二人で担当している大学院講義(材料熱力学特論)の7月の最終日に茨城大の教授・池田輝之 先生(大学時代の先輩)にお越しいただき,熱電材料の講義をして頂きました.
京大卒業後,阪大で3年間助手をしてその後カルテック,NASA(JPL)など...JSTさきがけ研究員...で,一昨年,准教授を一度も経ることなく,教授で日本にカムバックされました.非常にQuiet but Strongな先生です.
まずは,熱を電気に変換するという熱電変換の遠い宇宙(太陽系の太陽光で発電ができない程遠い宇宙)での発電の話から,地球規模でのコジェネレーションの話,種々の熱電変換素子(ペルチェ素子など)の話をされ,ゼーベック係数の基礎的な考え方,フォノンによる熱伝導の低減のための組織学などの話をして頂き,非常に大きな分野を一日でお話しいただきました.誠にありがとうございました.
講義内容を簡単に要約します.
1.熱電特性は温度差を電気に変えるという特性
非常に直観的な言い方をすれば,
電流を流暢に流したいわけだから電気伝導率σは高い方がいい・・・
でも,温度差をキープしたいわけだから熱伝導率は低い方がいい...
格子のみならず電子による熱伝導があるわけだから,なんという矛盾した要求をするんだ!...と思うかもしれませんね.
そう,熱電材料の研究は,せめぎあいの研究なのです.
2.無次元性能指数ZTとは?
V = SΔT なのですが,上で述べたようにせめぎあいがあるので,熱電特性を表現するパラメータが存在します.それが,無次元性能指数ZTです.
ZTのZは,Sの二乗に,σに比例し,熱伝導率K (= Ke + Kp) に反比例するようなパラメータとして定義します.ここでKe,Kpは電子,格子による熱伝導率.
電子による熱伝導と電子伝導率との間にはヴィーデマン・フランツ則に,Ke = LσT (L:ローレンツ定数,T温度),という関係が成立します.よって,
ZT = (S^2σ/K) T = [S^2σ/(Ke + Kp)] T = S^2 /[L (1 + Kp/Ke)]
L はあまり物質によって大きな差はないとのこと...
ということで,ゼーベック係数Sの高い材料,そしてKpの小さい材料を求めることになるんです.
3.ゼーベック係数Sの成り立ちが面白い...
絶対零度から有限温度になると,フェルミ・ディラック分布F(E,T)におけるフェルミエネルギー近傍(Ef)の確率が変化します...kT程度のぼやけが生じますね...そして,半導体,金属などには,状態密度(DOS:D(E))がありますが,そのD(E) x F(E, T)の形状が重要になります.
高温状態では低温状態よりも,高いエネルギー状態の電子数が増えます.エネルギーをフラットにするため,高温状態の物体から低温状態の同一物体へ電子が移動しようとします.これが電流となります.金属よりも,半導体が熱電特性が良い理由は,バンドがフェルミエネルギー近傍でのDOSは切り立っている急峻な曲線,つまりdD(E)/dEが大きくなるからです.つまり,良い縮退半導体を見つけようということです.
熱励起された電子数はσに直結しますので,dD(E)/dEの代わりにσdF(E, T)/dEを考え,その値が大きいと高い熱電特性を示しそうですね.
ちょっとした温度変化で電子のエネルギー状態が変えることができる,ということがポイントです.
この意味あいがSに含まれています.
4.熱伝導を減らそう!
どうやって?
一つは大きい複雑な格子の材料を選ぶ...これは,逆格子が小さくなることを示し,ウムクラップ散乱過程などによりフォノンは散乱され,熱はうまく運ばれません...これも一つの手です.
もう一つは...Kp = 1/3 CVL (C:比熱,V:音速,L:フォノン平均自由行程)の再検討
この式に基づいて,Kpを下げようとすると,Lを小さくすればよいことがわかりますが,これが数nm程度以下である必要があった!
しかし,本当はこの式をより掘り下げると,Lには階層性があり,もっと低い値から,高い値までLの分布を考慮してKpを評価する必要があると,最近の研究でわかってきた...
ということで,組織学的な制御で,微視的ラメラ組織を作りこむことによりKpを激減させることが可能であることを,実験的に示した.
これは,従来の式を鵜呑みにせず,思い切ってそこを突破することにより,大きなブレークスルーを果たせることを示してくれた非常に良い研究であると思うし,その研究成果を基礎から解き明かしてくれていて,本当に胸のすく思いでした.
さすが,先輩です...ありがとうございました.
ちなみにその先生のWEBsです.
・ResearchGate
・個人HP
京大卒業後,阪大で3年間助手をしてその後カルテック,NASA(JPL)など...JSTさきがけ研究員...で,一昨年,准教授を一度も経ることなく,教授で日本にカムバックされました.非常にQuiet but Strongな先生です.
まずは,熱を電気に変換するという熱電変換の遠い宇宙(太陽系の太陽光で発電ができない程遠い宇宙)での発電の話から,地球規模でのコジェネレーションの話,種々の熱電変換素子(ペルチェ素子など)の話をされ,ゼーベック係数の基礎的な考え方,フォノンによる熱伝導の低減のための組織学などの話をして頂き,非常に大きな分野を一日でお話しいただきました.誠にありがとうございました.
講義内容を簡単に要約します.
1.熱電特性は温度差を電気に変えるという特性
V = SΔT (V: 電圧,S: ゼーベック係数,ΔT: 温度差)
電流を流暢に流したいわけだから電気伝導率σは高い方がいい・・・
でも,温度差をキープしたいわけだから熱伝導率は低い方がいい...
格子のみならず電子による熱伝導があるわけだから,なんという矛盾した要求をするんだ!...と思うかもしれませんね.
そう,熱電材料の研究は,せめぎあいの研究なのです.
2.無次元性能指数ZTとは?
V = SΔT なのですが,上で述べたようにせめぎあいがあるので,熱電特性を表現するパラメータが存在します.それが,無次元性能指数ZTです.
ZTのZは,Sの二乗に,σに比例し,熱伝導率K (= Ke + Kp) に反比例するようなパラメータとして定義します.ここでKe,Kpは電子,格子による熱伝導率.
電子による熱伝導と電子伝導率との間にはヴィーデマン・フランツ則に,Ke = LσT (L:ローレンツ定数,T温度),という関係が成立します.よって,
ZT = (S^2σ/K) T = [S^2σ/(Ke + Kp)] T = S^2 /[L (1 + Kp/Ke)]
L はあまり物質によって大きな差はないとのこと...
ということで,ゼーベック係数Sの高い材料,そしてKpの小さい材料を求めることになるんです.
3.ゼーベック係数Sの成り立ちが面白い...
絶対零度から有限温度になると,フェルミ・ディラック分布F(E,T)におけるフェルミエネルギー近傍(Ef)の確率が変化します...kT程度のぼやけが生じますね...そして,半導体,金属などには,状態密度(DOS:D(E))がありますが,そのD(E) x F(E, T)の形状が重要になります.
高温状態では低温状態よりも,高いエネルギー状態の電子数が増えます.エネルギーをフラットにするため,高温状態の物体から低温状態の同一物体へ電子が移動しようとします.これが電流となります.金属よりも,半導体が熱電特性が良い理由は,バンドがフェルミエネルギー近傍でのDOSは切り立っている急峻な曲線,つまりdD(E)/dEが大きくなるからです.つまり,良い縮退半導体を見つけようということです.
熱励起された電子数はσに直結しますので,dD(E)/dEの代わりにσdF(E, T)/dEを考え,その値が大きいと高い熱電特性を示しそうですね.
ちょっとした温度変化で電子のエネルギー状態が変えることができる,ということがポイントです.
この意味あいがSに含まれています.
4.熱伝導を減らそう!
どうやって?
一つは大きい複雑な格子の材料を選ぶ...これは,逆格子が小さくなることを示し,ウムクラップ散乱過程などによりフォノンは散乱され,熱はうまく運ばれません...これも一つの手です.
もう一つは...Kp = 1/3 CVL (C:比熱,V:音速,L:フォノン平均自由行程)の再検討
この式に基づいて,Kpを下げようとすると,Lを小さくすればよいことがわかりますが,これが数nm程度以下である必要があった!
しかし,本当はこの式をより掘り下げると,Lには階層性があり,もっと低い値から,高い値までLの分布を考慮してKpを評価する必要があると,最近の研究でわかってきた...
ということで,組織学的な制御で,微視的ラメラ組織を作りこむことによりKpを激減させることが可能であることを,実験的に示した.
これは,従来の式を鵜呑みにせず,思い切ってそこを突破することにより,大きなブレークスルーを果たせることを示してくれた非常に良い研究であると思うし,その研究成果を基礎から解き明かしてくれていて,本当に胸のすく思いでした.
さすが,先輩です...ありがとうございました.
ちなみにその先生のWEBsです.
・ResearchGate
・個人HP
大学院講義は学部講義の単なる延長でしょうか?
人によっても異なると思いますが...
学部講義はきちんと整然と積み上げていきます.
自分としては工学部の2年生がこれほどやるか?というほどの内容を半年に盛り込んでいます.
材料統計物理学という講義(シラバス)です.
材料とつくのは,材料系の学生さんがメインに受講するというような意味合いで,この講義内容自体が材料科学に特価してるわけではありません.
早稲田大の私の友人・先輩(元・京大理学部出身で現・理工学部の教授)に自分の講義内容を伺ってみたところ,そこではこの内容量は3半期に分けて教えるとのことでした.
理学部とは異なり,基礎学問の講義は,一つ一つが多少浅いとは思うのですが,工学部ではさらに工学に関するテクニックを修得しないといけないので,それは仕方ありません.
ただし,工学部での専門講義が学問に立脚していないとおかしなことになります.当たり前ですね...
ですので,なるべく早いうちにかなりのことを理解しておく必要があるとは思います.
なので,学部生の早いうちになるべく広く基礎学問的な内容を述べようと思っています.
しかし適当ではだめで,しっかりとした学問ベースを築く必要があります.
そこが難しいところではあるのです.
他の授業の相互理解に役に立ったり,将来的に院試の礎となるはずで,学部講義の責任は軽くはありません.
一方,大学院の講義は全く異なるスタンスで私は臨んでおります.
とにかく情報を与え,興味があれば自分で勉強してもらう,というスタンスです.
そういう意味で,大学院の講義は自分で非常に楽しんでいます...少なくとも,自分自身が楽しくないと学生さんは面白くないのではないかと思います.
教員として幸せだな~と思うのは,自分のこれまでの研究内容を講義という形で学生に伝えることができることです.
なるべく基礎や汎用性を重視して講義することを心掛けるのですが,それにしても通常,どこかの学会で発表したくても,そんな講義じみたことできない場合も多いでしょう.
そういう種類の話は,大学院講義にぴったりだと思っています.
講義予定の内容は,
熱力学・統計力学(マトリクス力学形式,転送行列法,平均場近似,BW近似,クラスター変分法(CVM近似),モンテカルロ法など),
弾性力学(マイクロメカニクス理論)・結晶弾性論・弾性波動論・緩和理論(擬弾性・粘弾性・強制振動などの緩和),
外場や弾性拘束場を考慮した組織形成発展理論(フェーズフィールド法),
ガラス転移(ガラスの工学的性質の概観,α緩和,β緩和などの現象論,・Adam-Gibbs理論,Mode-Coupling Theory紹介,スローダイナミクスの起因と証拠:動的不均一性,静的不均一,ガラス固体に残存する弾性・擬弾性・緩和挙動)
など...
多岐にわたります.
これらの内容で論文を書いた経験があり,それらを講義形式で伝えるような講義なんですが,基本とするところや学問ベースは大切にしているつもりです.
勿論,7回の講義では全然足りず,まったく終わりません.ですが,一応レジュメは配ってます.
ちょっと洗脳するようなところももあります.
実は,それが大学のカラーで,学風,学閥,ということになるのでしょう...
種々の実務も教務も教育も研究も多岐にわたり,教員の仕事の忙しさも近年ますます激しくなっていきますが,忙しいと文句を言うのではなく,それらを楽しまないと損です...
特に講義...これは楽しみたいと思っています.
人によっても異なると思いますが...
学部講義はきちんと整然と積み上げていきます.
自分としては工学部の2年生がこれほどやるか?というほどの内容を半年に盛り込んでいます.
材料統計物理学という講義(シラバス)です.
材料とつくのは,材料系の学生さんがメインに受講するというような意味合いで,この講義内容自体が材料科学に特価してるわけではありません.
早稲田大の私の友人・先輩(元・京大理学部出身で現・理工学部の教授)に自分の講義内容を伺ってみたところ,そこではこの内容量は3半期に分けて教えるとのことでした.
理学部とは異なり,基礎学問の講義は,一つ一つが多少浅いとは思うのですが,工学部ではさらに工学に関するテクニックを修得しないといけないので,それは仕方ありません.
ただし,工学部での専門講義が学問に立脚していないとおかしなことになります.当たり前ですね...
ですので,なるべく早いうちにかなりのことを理解しておく必要があるとは思います.
なので,学部生の早いうちになるべく広く基礎学問的な内容を述べようと思っています.
しかし適当ではだめで,しっかりとした学問ベースを築く必要があります.
そこが難しいところではあるのです.
他の授業の相互理解に役に立ったり,将来的に院試の礎となるはずで,学部講義の責任は軽くはありません.
一方,大学院の講義は全く異なるスタンスで私は臨んでおります.
とにかく情報を与え,興味があれば自分で勉強してもらう,というスタンスです.
そういう意味で,大学院の講義は自分で非常に楽しんでいます...少なくとも,自分自身が楽しくないと学生さんは面白くないのではないかと思います.
教員として幸せだな~と思うのは,自分のこれまでの研究内容を講義という形で学生に伝えることができることです.
なるべく基礎や汎用性を重視して講義することを心掛けるのですが,それにしても通常,どこかの学会で発表したくても,そんな講義じみたことできない場合も多いでしょう.
そういう種類の話は,大学院講義にぴったりだと思っています.
講義予定の内容は,
熱力学・統計力学(マトリクス力学形式,転送行列法,平均場近似,BW近似,クラスター変分法(CVM近似),モンテカルロ法など),
弾性力学(マイクロメカニクス理論)・結晶弾性論・弾性波動論・緩和理論(擬弾性・粘弾性・強制振動などの緩和),
外場や弾性拘束場を考慮した組織形成発展理論(フェーズフィールド法),
ガラス転移(ガラスの工学的性質の概観,α緩和,β緩和などの現象論,・Adam-Gibbs理論,Mode-Coupling Theory紹介,スローダイナミクスの起因と証拠:動的不均一性,静的不均一,ガラス固体に残存する弾性・擬弾性・緩和挙動)
など...
多岐にわたります.
これらの内容で論文を書いた経験があり,それらを講義形式で伝えるような講義なんですが,基本とするところや学問ベースは大切にしているつもりです.
勿論,7回の講義では全然足りず,まったく終わりません.ですが,一応レジュメは配ってます.
ちょっと洗脳するようなところももあります.
実は,それが大学のカラーで,学風,学閥,ということになるのでしょう...
種々の実務も教務も教育も研究も多岐にわたり,教員の仕事の忙しさも近年ますます激しくなっていきますが,忙しいと文句を言うのではなく,それらを楽しまないと損です...
特に講義...これは楽しみたいと思っています.
仕事仲間って素晴らしいと思う.
何故ならば,多かれ少なかれ,同様の目的意識をもって向かっていこうとしているからで,本当にお互いを認め合うことができれば,最高,なのだと思います.
しかし,そこに行くまでには,お互いに張りあったり,堅持,顕示,固執,様々なところでぶつかります.
でも,それを超えることで,相手がどう考えているのか,どう対処したいのか,どうしてほしいのか,を理解することができます...お互いに.
それを避けて通ると,お互いに真の理解は得られないですし,通り一遍の付き合いになります.
いい仲間を作りたいと思います.
何故ならば,多かれ少なかれ,同様の目的意識をもって向かっていこうとしているからで,本当にお互いを認め合うことができれば,最高,なのだと思います.
しかし,そこに行くまでには,お互いに張りあったり,堅持,顕示,固執,様々なところでぶつかります.
でも,それを超えることで,相手がどう考えているのか,どう対処したいのか,どうしてほしいのか,を理解することができます...お互いに.
それを避けて通ると,お互いに真の理解は得られないですし,通り一遍の付き合いになります.
いい仲間を作りたいと思います.
画期的なリチウム電池負極用活物質材料の開発に関する話題です.自分で画期的というのもあほらしいのですが,本当に素晴らしい材料だと思っています(東北大金研の友人,加藤さんと和田さんに感謝です).ナノポーラスシリコンをトップダウン的手法で作製し,その空隙にリチウム化合物の体積膨張をさせ膨張歪を緩和させるという方法です.この成果は,Nano Lettersに掲載されました.
Bulk-nanoporous-silicon negative electrode with extremely high cyclability for lithium-ion batteries prepared using a top-down process,
T. Wada, T. Ichitsubo, K. Yubuta, H. Segawa, H. Yoshida, H. Kato,
Nano Letters, in press (2014).リチウムイオン電池のエネルギー密度上昇に向けた負極活物質として期待されているシリコンやスズなどは,従来の炭素系負極材料に比べて単位質量あたり3~10倍程度リチウムを吸蔵できる材料として注目されてきました.しかし,リチウムを多く吸蔵できる材料はそのトレードオフとして大きな体積膨張(300~400%)を伴い,これにより生じる歪エネルギーが材料内部に蓄積されます.この歪エネルギーはリチウム化合物形成の化学的駆動力を凌駕するほど大きくなり,最終的には自壊しながら歪解放してリチウム化合物を形成することになり,必然的に電極のサイクル性が乏しくなるという結果に至っていました.
そこで本研究では,東北大のグループによって開発された新たな材料科学的手法を用いて,ナノ構造とバルク性を併せ持つバルクナノポーラス材料の開発に成功し,リチウム化に伴う体積膨張をポロシティ程度(つまり空隙部分の体積程度)に制御することにより,飛躍的に長寿命化できることを実証しました.また,トップダウン方式によるナノ構造化なので、高容量化も容易に実現できます.
先の我々の研究(J. Mater. Chem. 21, 2701-2708, 2011)に基づけば,体積膨張を拘束した場合にはスズなどの活物質はリチウム化できないことも実証されており(巨大な歪エネルギーを蓄積できないという理由により),このポーラスの空隙に自由に体積膨張させるという方法は,マクロな歪を大幅に低減できるので,リチウム化やマグネシウム化などによる大きい体積歪を伴う電極活物質の長寿命化に対して一つの解決法を与えたことになります.また表面積が大きいので,高速充放電に適しています.
長らくご無沙汰しております...まるまる2年ぶりです(笑)
マグネシウム蓄電池用正極活物質Chevrel化合物の酸化還元挙動について,主に熱力学的観点から議論した論文が,2014年6月27日付けで受理されました.
マグネシウム蓄電池用正極活物質Chevrel化合物の酸化還元挙動について,主に熱力学的観点から議論した論文が,2014年6月27日付けで受理されました.
A new aspect of Chevrel compounds as positive electrode for magnesium batteries,
T. Ichitsubo, S. Yagi, R. Nakamura, Y. Ichikawa, S. Okamoto, K. Sugimura, T. Kawaguchi, A. Kitada, M. Oishi, T. Doi, E. Matsubara,
Journal of Materials Chemistry A, in press (2014).
Journal of Materials Chemistry A, in press (2014).
まず示したことは,熱力学的矛盾,です.
マグネシウム電池用の電解液としてよく知られている通常のグリニャール試薬を用いた場合,Cu金属のアノード溶解電位は約1.7-1.9 V vs Mg程度なのですが,実は,同一の電解液でCu2Mo6S8というシェブレル化合物のCuがおよそ1.2-1.6 V vs Mg(Cuのアノード溶解電位以下)で脱離できてしまうのです.このことはすなわち,THF中では,Cu2Mo6S8中のCuの化学ポテンシャルはCu金属の化学ポテンシャルよりも高い(すなわち卑である)ことを意味し,化合物を形成する際に,すべての構成元素の化学ポテンシャルは下がるという熱力学の教えに反します.リチウム電池を思い起こしてください.リチウム金属のアノード溶解電位は必ず,リチウム化合物のリチウム脱離電位よりも卑な電位にあるはずです.普通のカチオンの脱挿入だけですと,こういう現象は起きません.では,この熱力学的矛盾は,何が引き起こすのか?この興味深い現象に気付いたことにより,本研究は一気に進みました.
もともと,この研究は,Chevrel化合物の酸化還元電位が溶媒の種類によって大きく異なる実験事実に疑問を感じたことがきっかけでスタートしました.水溶液系の実験で,Mo6S8のCuカチオンの挿入電位は約0.7V vs SHE (約3V vs Mg)程度にあることが知られていました.水溶液の場合,Cu金属のアノード溶解電位は約0.3V vs SHEであるので,0.7V vs SHEという電位には熱力学的な矛盾はありません.Cuは2価のアコイオンであり,そのまま2個挿入され,主としてMo6S8が0価から-4価に還元されるのです.Cuイオンが挿入されようが,Mgイオンが挿入されようが,Liイオンが挿入されようが基本的には,そのカチオン種にあまり変更を受けずに,主にMo6S8の酸化還元挙動が支配しています.勿論カチオンの挿入位置やカチオン半径の大小による格子定数の変化などで多少は酸化還元電位は変化すると考えられますが...案の定,Mg2Mo6S8からMgを脱離させる実験を水溶液で行ったところ,やはり約0.7V vs SHEのところで観測されました.それがどうして,THFという溶媒を使ったグリニャール試薬電解液だと,Mgの脱離挿入電位(Mo6S8の酸化還元電位)が1.1V vs Mgになってしまうのか?これが面白いポイントです.
それは,溶媒の侵入あるいは共挿入に起因するもの,だと現状考えています.その知見を基に,溶媒を適切に選択する(大きな分子の溶媒やイオン液体を使用する)ことでChevrel化合物を 2-3 V vs Mg/Mg2+ 程度で酸化還元できること,すなわち高起電力を有するマグネシウム蓄電池の構築が可能であることを実験的に示しました.
これらの結果は,マグネシウム蓄電池の今後の発展に向けて非常に重要ですが,電池としてはまだまだ未完成です.正極以外にも大きな問題があり特にMg金属を負極とする場合,多かれ少なかれ不働態化の問題が起こります.この問題をクリアしないといけません.
ちなみに現在ではシェブレル化合物以外にもサイクリックボルタンメトリーで明確にマグネシウムが脱挿入する正極活物質も見つけ出しており,今後発表していく予定です.
Journal of Materials Chemistry Aに投稿していたフェーズフィールド計算機シミュレーションに関する論文についてですが,その際に査読して下さったレフェリーがとてもすばらしかった.内容はかなり難しいと思うのですが,驚きの理解力であり,しかも本当に私の主張したいことが,やはり世の中ではわかっていなく,それゆえ重要である,というコメントをくれております.このようなレフェリーと出会えた本論文は,とても幸せだったと思います.本論文では,
* 正極で用いられる酸化物などのイオン性物質における「原子」のケミカルポテンシャルとは?
* 誘電分極がないとした場合,充電時のカチオンとアニオンの自由エネルギー(この場合,電位による静電ポテンシャルの変化を考慮したエレクトロケミカルポテンシャルという量)の総和はキャンセルされる!というごく自然な事実
* それならば何が充電や放電の駆動力となるのか?(電位ではなく,電極と電解液で形成される電場,すなわち電位差,電位勾配が重要)
など種々の基礎的事項を記載しておりますが,やはりこれらのことはあまり理解されていなく,暗黙のうちに適当に議論されていた感じが強いようです.シミュレーションなどをやると,こういうことがきちんと理解されていくので大変勉強になります.
Evernoteへのリンク
http://www.evernote.com/shard/s188/sh/018cdb89-399a-4254-8b95-a43799804c82/8de4148d3882b2a715d6494ccb84d809
* 正極で用いられる酸化物などのイオン性物質における「原子」のケミカルポテンシャルとは?
* 誘電分極がないとした場合,充電時のカチオンとアニオンの自由エネルギー(この場合,電位による静電ポテンシャルの変化を考慮したエレクトロケミカルポテンシャルという量)の総和はキャンセルされる!というごく自然な事実
* それならば何が充電や放電の駆動力となるのか?(電位ではなく,電極と電解液で形成される電場,すなわち電位差,電位勾配が重要)
など種々の基礎的事項を記載しておりますが,やはりこれらのことはあまり理解されていなく,暗黙のうちに適当に議論されていた感じが強いようです.シミュレーションなどをやると,こういうことがきちんと理解されていくので大変勉強になります.
Evernoteへのリンク
http://www.evernote.com/shard/s188/sh/018cdb89-399a-4254-8b95-a43799804c82/8de4148d3882b2a715d6494ccb84d809
もう12月ですね.
全然ブログ更新していない間に,7ヶ月くらいたったかもしれない...
かなり一年が立つのが速い??というか,今年はすごくゆっくりと全てが動いていたような気がする.しかし,充実はしていたかな.
ALCAで採択されたマグネシウム蓄電池...猛烈にやってます.
うちのS君をはじめとする学生さん達,非常に優秀で,私は心強い限りです.これ,ものに出来るかもしれません.いや,ものにしないといけないでしょう.
やりますよ~
話題がかわって・・・
5年くらい前からか.Physical Review Letters かPhysical Review Bから頻繁に査読の依頼が来る...かれこれ20回以上は査読しているよ.これどうしたものか...
PRLはかなり難しい雑誌なので,こっちもかなり厳しい目で見てしまう.通常のジャーナルだったら通るのに,PRLだからダメ,ということはよくある.私もそういう目で見ていることがよく分かる...
そんな自分が,最近,Physical Review Bに久しぶりに投稿した.一人アクセプト,一人他のジャーナルへ,という判断が2回目の査読段階で出たため,エディタは,3人目の査読者へ放出.するとその3人目は,Revisionの要求...しかし,エディタは,この段階で,私達のRebuttalを待たずに,もう他のジャーナルへ投稿せよ,と...おい!ええ加減にせーよ.もう一回査読者に返すのが筋だろう!?
もう,査読すんのやめようかなと思いますね.少なくとも,それだけ査読者に選んでいる研究者からの投稿論文なのだから,少しくらいこっちのことも信用せーよと思ってしまう.
あ,そうそう...10年前くらいに作った個人のHP,ちょっと新しくしました.
これからマグネシウム蓄電池の成果をアップできるようにするためです!
全然ブログ更新していない間に,7ヶ月くらいたったかもしれない...
かなり一年が立つのが速い??というか,今年はすごくゆっくりと全てが動いていたような気がする.しかし,充実はしていたかな.
ALCAで採択されたマグネシウム蓄電池...猛烈にやってます.
うちのS君をはじめとする学生さん達,非常に優秀で,私は心強い限りです.これ,ものに出来るかもしれません.いや,ものにしないといけないでしょう.
やりますよ~
話題がかわって・・・
5年くらい前からか.Physical Review Letters かPhysical Review Bから頻繁に査読の依頼が来る...かれこれ20回以上は査読しているよ.これどうしたものか...
PRLはかなり難しい雑誌なので,こっちもかなり厳しい目で見てしまう.通常のジャーナルだったら通るのに,PRLだからダメ,ということはよくある.私もそういう目で見ていることがよく分かる...
そんな自分が,最近,Physical Review Bに久しぶりに投稿した.一人アクセプト,一人他のジャーナルへ,という判断が2回目の査読段階で出たため,エディタは,3人目の査読者へ放出.するとその3人目は,Revisionの要求...しかし,エディタは,この段階で,私達のRebuttalを待たずに,もう他のジャーナルへ投稿せよ,と...おい!ええ加減にせーよ.もう一回査読者に返すのが筋だろう!?
もう,査読すんのやめようかなと思いますね.少なくとも,それだけ査読者に選んでいる研究者からの投稿論文なのだから,少しくらいこっちのことも信用せーよと思ってしまう.
あ,そうそう...10年前くらいに作った個人のHP,ちょっと新しくしました.
これからマグネシウム蓄電池の成果をアップできるようにするためです!