一方ユルは、チェギョンの背中を呆然と見送るしかなかった。
先ほど心に吹いた風が、ざわざわと音を立てて心を揺さぶっていた。
チェギョンに感じていた想いは本当に『愛』なのか。
失ったものへ執着ではなかったか?
シンに幸せになって欲しくなかっただけではないのか?
チェギョンのシンに対する気持ちを聞けば聞くほど、自分のそれとは明らかに違う気がしてしまう。
男女の差、愛し方の差、理由をつければいくらでもある気がする。
そんな違いなど、今までは気にしないように顔をそむけてきた。
だけど、自分は傷ついてでもシンの傍にいたいと言うチェギョンがシンの為に立ちあがったのを見て、ユルは自然とスニョンの言葉を思い出し、自分の気持ちに向き合ってしまった。
(チェギョンが欲しい。)
その気持ちに嘘はない。
(チェギョンが好きだ。)
これも間違いない。
だけど・・・
チェギョンは物ではないのだ。
チェギョンの気持ちは?
(いや、僕のことを見てくれたら、僕だけを見てくれるなら必ず幸せに・・・!!)
その時嫌な痛みが心にチクリと刺さった。
(見てくれるなら?見てくれなければ幸せに出来ない・・・?)
当たり前のように正当化させていた。けど・・・。
(チェギョンはたとえシンがチェギョンだけを見ていなくても、シンの幸せを祈るんだ。)
そして涙を流すのだ。
こっそりと。
ある時には怒って、あのシンにまっすぐにぶつかって、そしてまた涙を流す。
(激しいよな・・・。)
「ふぅ~。」
知らぬ間にため息をついていた。
それは、2人の絆を認めてしまったように感じて、ユルは唇をかんだ。
小さく感じた違和感はどんどん大きくなって自分をのみこんでしまう気がした。
(部屋で休もう・・・。)
頭が重く、くらくらしたが、ユルはようやく立ち上がり、宮の廊下をとぼとぼと歩いていた。
すると、たまたま近くを通りかかった祖母である太皇太后が、さえない顔のユルに気がついた。
太皇太后は少し考えていたが、尚宮に命じ、ユルに自分の部屋に来るようことづけた。
