先日、ダイバーシティ東京でたまたま目撃したギャルバン、GACHARIC SPINがその後もずっと気になって仕方がなかった。

実はあの日、しず風 and 絆のライブの終了後に例の凄腕ベーシストの女のコが物販スペースにいたので話し掛けに行ったのだ。

「さっきは遠くから観ていて、よく見えなかったんだけど、お姉さん、あの音は指で弾いてるの?」

「はい。」

「イヤー、ホント、あまりにも上手いんでビックリししましたわ。」

「いえいえ、そんなそんな…」

「ロック専門?」

「リズム&ブルース系も以前やってました…。」

「あーなるほどね、何かまるでジャコ・パストリアスかラリー・グラハムを思わせたけど…あとホラ…アレ、何だっけ?あの人…」

「マーカス・ミラー?」

「そうそうマーカス・ミラー!」

と、いきなり謎のオヤジの出現に若干、戸惑いを見せつつも彼女は、フライヤーを手にとってオレに渡してくれた。

そこには5月6日 渋谷O-WESTワンマンライブと書かれていた。

家に帰ってから、調べてみると、いろんな事実が明らかになる。

このベースの女のコはF チョッパーKOGAといい、以前までは売れないグラビアアイドルをやっていたとか。

グラビアアイドル?背は低いけど顏とか小さいし確かにそれなりに雰囲気あるかもしれない。

自分の知り合いにギャルバンにうるさい人間がいるので連絡をとってみると色々と昨今のギャルバン事情について教えてくれて、やはり彼女のベースプレイヤーとしての能力は一部でたいへん高く評価されているらしい。

うむ。やはりこれは、確認のためにワンマンライブに参戦するしかないと思ったが、いきなり公式ブログに前売りチケット500枚が完売したとの報告が掲載される。

GW最終日、それでも諦めきれないオレはO-WESTに出向いた。

会場前は人でごった返していたが、なんと、そこで兵庫在住の古くからのヲタ友を発見。

ダメ元でチケット余ってないかと聞くと、知り合い連中に声を掛けてくれて、あっさりと良整理番号のチケットを入手。おかけで、かなり前のほうでライブを観ることが出来た。

ここでひとつ興味深いのはGACHARIC SPINの客層である。

つまり、自分の古くからのヲタ友達がいたことからもわかるように、現在のギャルバン市場の客層は純粋な音楽好きよりも、いわゆるヲタっぽい客が多い。すなわち圧倒的に男の客が多く、また悲しいかな、年齢層も決して若くはない。

これは他のバンドも同様らしく、さらに近年は「けいおん!」の影響もきっとあるのだろう、ギャルバン客のヲタ指数はさらに上がってきているのではないだろうか。

確かにガチャピンのメンバーは現役アイドルに匹敵するとまではいわないまでもまずまず可愛いし、ギャルバンにとってルックスというのは、やはりかなり重要な生命線なのだと思う。

実際、SCANDALの売り出しかたは完全なヲタ狙いのアイドル商法だったし、今ではアイドル会場で日常化した掛け声である「mix」が最初に打たれたのが10年以上前のZONEの現場であることは意外に知られていない。

つまり何が言いたいのかというとギャルバン市場とアイドル市場というのは微妙にリンクされており、今後ますますギャルバン市場はアイドルヲタに解放され、またそれを供給する側はアイドル的な商法を用いていくのではないだろうか、ということ。

ただし、これが行き過ぎると、現在のアイドル市場がそうであるように、本来、いちばん大事なものであったはずの「歌」や「音楽」といったものが、すべてないがしろにされ風俗産業のようになってしまうという本末転倒な事態を招きかねないが…。

ライブの感想に入ろう。

現在、ガチャピンには専属のボーカリストがいないので、ステージ上では矢継ぎ早に他のバンドから借りてきたサポートボーカル(すべて女性)が登場し歌うのだが、一概に誰がいいとか悪いとかいうことはオレにはよくわからない。(中にはその界隈で有名な人もいたらしいが)

ただし、先日のお台場で見たとき同様、このバンドの奏でる音のほうはハンパではなかった。

曲の感じはコミカルなものからコテコテのヘヴィメタル風なものまで多彩だが、不思議と全体の音に統一感がある。

いわゆる泣かせのきいたメロディ主体なものよりグルーヴ主体の重いサウンドが特徴的である。

そして、やはり何よりも圧巻なのはスラップ奏法を多用したFチョッパーKOGAのベースである。

果たして彼女がいつからベースを弾いてるのか。また誰の影響を受けて、どんな練習を積んできたのか、謎は深まるいっぽうだが、何よりもユニークなのは彼女のあまりにも非ロック的なルックスというか佇まいだろう。

つまり彼女には、テクニックのあるプレイヤーにありがちな求道的な雰囲気や切羽詰まった感じがまったくなく、どんな状況でも笑みを絶やさず楽しそうにプレイしている。扱っている楽器の種類も音楽性も違うが自分のイメージではピアニストの上原ひろみなんかにすごく近いものを感じてしまう。

そして、彼女のおおよそロックベーシストとは思えないようなルックスがいい。

それはどこかアンチロック的な清潔感があり、イメージ的にはまるで幼稚園の先生や保母さんといった趣がある。

コンサートの終盤にこの日、出演したボーカリストが一斉に舞台に上がり、ステージ上は、さながら田舎のキャバクラのような様相を呈していたが、そこでも彼女の非ロック的なルックスは一際浮いているように見えた。

このバンド自体が500人規模のライブハウスでワンマンを行うのは初めてだということだが、彼女達の演奏するサウンドのスケールが到底、この程度の会場の規模に収まりきるわけはなく、客席で音を聴いていると、それが巨大なスタジアムやアリーナを鳴らしている光景が容易に想像出来てしまうところがスゴい。

GACHARIC SPINを聴いていると自分の体内にもまだロックに騒ぐ血がかよっていることを実感する。