長期休暇の度に思う。彼は帰って来ているだろうか。別れてからもう10年が経つ。それでも彼が帰省することはあるのか、いつ帰省するのかしているのか考えてしまう。でもそれが彼に会いたいからなのか彼に会ったらどんな気持ちになるのか知りたいからなのか彼と偶然遭遇してしまうのが怖いからなのか彼が奥さんと子どもを連れて帰省していることを知ってしまってそれを目の当たりのするのを恐れているからなのか分からない。だけどいつもいつも考えてしまう。もし今会ったらどんな顔でどんな言葉を交わすのか。

 「縁があったらまた付き合うことになるべ。」その言葉から10年。お互いのことが嫌になったわけでも、どちらかが浮気をしたからでも、喧嘩別れをしたわけでもない。もう遠距離恋愛を続けられなくなった彼が別れを告げたのだ。「好きなのに一緒にいられないのが辛い」と。何故あの時全てを捨てて彼の元へ行かなかったのか。全てを犠牲にして彼の元へ行っていたら今頃どうなっていたのか。彼の会社のトラックを見る度にこうして心を痛める。初めての大恋愛。大好きで大好きでしょうがなくて、毎日一緒にいて、一緒にいられない時間はずっと電話をして、友だちに会う時もクラブに行く時も何をするにもいつも一緒で、彼がいないと眠られなくて同棲して、尽くして尽くされて、もうこれ以上幸せなことなんてないと確信し続けていた日々。それなのに仕事を探しに上京した彼をわたしは見送り大学に通い続けた。遠距離恋愛でも大丈夫。大学を卒業したらわたしも東京へ行く。だけど大学の卒業は思ったよりも長引いて、その時間がゆっくりとわたしたちの関係を蝕んでいった。「大学を辞めて結婚してほしい」と言われた時にどうして付いて行けなかったのか。彼のそばにいられるなら全てを捨ててもいいと思っていたのに。彼の着信音はずっとAlaineSacrificeにしていたのに。愛する男と学歴を天秤にかけた自分。どちらを選んでも失うものは大きかった。今となってもどちらが正解だったのか全く分からない。

 今の生活に不満はない。かといってすごく幸せで満たされているというわけでもない。だからこそいつまで経ってもあの時の自分の決断に自信が持てないのであろう。あの時は彼との未来がはっきり見えていた。だけど今のわたしは自分一人の未来さえ想像出来ない。それが彼を手放してしまった後悔を煽るのだろう。10年経ってもまだ傷は癒えない。これからも一生この傷は癒えないだろう。彼にもう一度だけ会いたい。いや、遠くから一目見るだけでいい。でもその姿が彼の今愛している女と彼の分身を連れたものだけではありませんようにと切実に神に願う。