声をかけてきてのは美沙の大学の同期、咲子であった。
「うん、でも時間はいくらでもつぶせるから全然大丈夫だよ」
美沙はノートパソコンを軽く叩いて見せた。
「なにしてたの?」
「へへへ、ちょっとね。」
「なによー、教えなさいよー。」
「時期がきたらね。」
美沙は思わせぶりに笑って見せたが、内心、
(この後の展開まったく思いついてないし、一体その時期はいつになるんだろう。)
と、苦笑していた。
「ま、バレンタイン直前の週末に女二人であってるような子のやってることなんて大したことないにきまってるよね。」
咲子はいたずらっぽい笑いを見せながら軽く嫌味を言う。
「うるさいなー、私はそんなことよりもっと大きなことを考えてるの!」
美沙も受けて立つが、その「大きなこと」がいきづまっているだけに、あまり言葉に力がない。
美沙と咲子はいわゆる幼馴染であった。
中学高校は別々であったが、大学で再会した。
いわゆる腐れ縁というやつであったが、自他と共に認める親友として、
夜な夜な語りあったり、週末は毎週のように遊びに出かけている。
今週も自宅のあるT市から都心に足をのばす約束をしていた。
「さ、早く電車に乗らないと映画の時間に遅れるよ。」
「まったくなんで週末にまでアンタと二人で映画を見なきゃならないのかなぁ。」
二人はお互いのことを棚に上げつつ、駅へと向かった。