声をかけてきてのは美沙の大学の同期、咲子であった。


「うん、でも時間はいくらでもつぶせるから全然大丈夫だよ」
美沙はノートパソコンを軽く叩いて見せた。


「なにしてたの?」


「へへへ、ちょっとね。」


「なによー、教えなさいよー。」


「時期がきたらね。」


美沙は思わせぶりに笑って見せたが、内心、


(この後の展開まったく思いついてないし、一体その時期はいつになるんだろう。)


と、苦笑していた。


「ま、バレンタイン直前の週末に女二人であってるような子のやってることなんて大したことないにきまってるよね。」


咲子はいたずらっぽい笑いを見せながら軽く嫌味を言う。


「うるさいなー、私はそんなことよりもっと大きなことを考えてるの!」


美沙も受けて立つが、その「大きなこと」がいきづまっているだけに、あまり言葉に力がない。


美沙と咲子はいわゆる幼馴染であった。
中学高校は別々であったが、大学で再会した。
いわゆる腐れ縁というやつであったが、自他と共に認める親友として、
夜な夜な語りあったり、週末は毎週のように遊びに出かけている。


今週も自宅のあるT市から都心に足をのばす約束をしていた。


「さ、早く電車に乗らないと映画の時間に遅れるよ。」


「まったくなんで週末にまでアンタと二人で映画を見なきゃならないのかなぁ。」


二人はお互いのことを棚に上げつつ、駅へと向かった。


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月城が街のはずれの河川敷で発見されたという報が糸井の耳に入ったのは、2番目の死体が見つかってから10時間以上経過した、早朝のことであった。


発見場所は最初の死体が発見されたあの公園。


糸井は月城が「死体で」発見されなかったことに安堵しながら搬入された警察病院へ向かったが、

ベッドに横たわる月城はただ眼を閉じて横たわっていた。


担当医は糸井に対し、外傷はないが何かしらの気体を吸い込み深いこん睡状態に陥り、目が覚めるまでに時間がかかるかもしれない、と簡単に説明を行い病室を後にした。



「まったく・・」

糸井は月城を一人で行動させた自分に改めて憤りを感じ、また一方で、犯人の方から手がかりを残すような行動を起こしたことについて意外な印象を持った。

糸井は犯人像を、神経質な、慎重なイメージをぼんやりと持っていた。

それがこうも積極的に行動を起こすとは・・


もちろん、月城の失踪と一連の事件が関連している確証はまだない。

が、糸井は確信を持って犯人の存在を感じていた。


「月城よ・・何があった?」


そう糸井は問いかけながら、深く眠る月城を一瞥し、そして署に戻ったのだった。


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そこまで入力したところで、

「美沙、ごめん、待った?」


後ろから、聞きなれた声がした。






(う………ん、やばいなぁ。。。ひらめかないなぁ。。。。)

美沙は 携帯のボタンを押す手が止まった。

彼女が、小説を書くことが出来なくなってから、今日で 9日目になる。
実は前にも、同じようなことがあった。
確かあれは7日間 生みの苦しみを味わっていた。

(だって、白いガスって…めったに入手できない毒物って……またネットで調べなきゃ、それに最初の男って誰にするか決めないまま、いっぱい登場人物でてきちゃったし、あ~警察の階級だってわからなぁ~い!!

美沙はごく普通の大学生。平凡に当たり前に生きてきた彼女に、殺人やら警察やらわかるわけがない。

彼女はちょっと昔に、はやった芥川賞をとった美人大学生に憧れて、いや自分だって彼女になれるに違わないと信じて止まず、日々、小説を書いている。

ところがここにきて、ちょっとしたスランプ…


と、その時 彼女は何かを閃いた!

(あ!月城!)

携帯を押す親指にやたらと力がはいった……


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