数日前に京都大学の西浦博教授らによる研究グループが医学雑誌「ジャーナルオブクリニカルメディシン」に発表したことが話題になっています。

7月22日からの5日間という極めて短い期間を『切り取って』論文に記し、それをさらに『切り取って』報道するという酷い有り様になっていますが、私も元の論文を読んだところデータをダウンロードできず、歯がゆい思いをしていたところ、非常に分かりやすく分析された記事を見つけましたので紹介します。

Gotoトラベル開始後に「旅行関連の感染者が約1.5倍になった」とか「旅行に関連する新型コロナウイルス感染者が最大６～７倍増加した」とメディアが盛んに報道していますが、その内容はまさに『切り取り』でしかありません。

本論文では比較にあたって、期間を下記の4つに分割しています。

【1a】Go Toキャンペーン前の6/22-7/21（30日間）

【1b】Go Toキャンペーン直前の7/15-19（5日間）

【2】Go Toキャンペーン開始直後の7/22-26（5日間）

【3】Go Toキャンペーン開始後の8/8-31（24日間）

旅行者の感染が1.5倍になったとは下図のとおり、【1b】の5日間と比較すると、【2】の5日間は『旅行あり』の感染者が約1.5倍になったということです。

しかしどう見ても『旅行なし』も同程度には増加していますので、旅行が原因で拡大したのではなく元々増加期にあったというだけの話でしょう。

さらに言えば【3】の24日間（8月）では『旅行あり』の感染者は明らかに『旅行なし』よりも減少しており、感染者に占める『旅行あり』の割合も8月には減少していることが論文にも示されています。

数字に起こすと、8月はGoToトラベルが開始される前の半分程度ですね。

また、観光目的の旅行者の感染が6～7倍になったとは下図のとおりです。

そもそも緊急事態宣言解除後とはいえ、感染が収束しておらず一日も祝日の無かった6/22-7/21と4連休とでは観光者の絶対数が違うので、適切な比較とは言い難いでしょう。

また、こちらも8月には観光客の感染が激減しており、5日間という期間がデータとして限定的すぎて振れ幅が大きすぎただけとも見ることができます。

そもそもGoToトラベルの活用数自体、観光庁のデータでは7月は200万人で8月は1300万人となっており、7月はそれほど活用が進んでいなかったことが分かっています。

あまり活用の進んでいなかった時期は『旅行関連』も『非旅行関連』も感染状況は変わらず、活用が進んだ時期では『旅行関連』の感染者は激減している。論文全体を総合するとそのような結論しか導けない内容になっています。

紹介先の記事では「この数字8月になると大幅に低下するのですがGo Toの普及が感染を減らした……なんてことは当然ないのでご注意を」との記載がありますが、GoToトラベルの対象になるためには感染防止策を講じて登録しなければならないため、宿泊施設の感染防止推進には大いに役立った可能性があります。

7月の5日間だけでなく8月の24日間にもフォーカスしなければ単なるプロパガンダで終わってしまいますので、しっかりとチェックすることが大切ですね。

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