日米首脳会談直前に牛肉セーフガード発動/バイデン政権への先制パンチ | 上下左右

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台湾の早期TPP加入を応援する会の代表。
他にも政治・経済について巷で見かける意見について、データとロジックに基づいて分析する・・・ことを中心に色々書き連ねています。

日米2+2会談が無事に終了し、次は来月前半にもホワイトハウスでの日米首脳会談が予定されていますが、日本政府がアメリカ産の牛肉について3月18日にも国内の生産者を保護するために関税を引き上げる「セーフガード」を発動する方針であることが分かりました。


セーフガードが発動されれば、発動日から30日間、アメリカ産の牛肉の関税が現在の25.8%から38.5%に引き上げられますので、まさに関税を引き上げている最中に日米首脳会談が行われることになります。バイデン米大統領にとっては大統領就任後初の国家首脳の招待になるのですが、鬼のようなタイミングでの発動になりそうです。

日米FTA交渉においては日米の力関係からアメリカの方が有利になると思われがちですが、過去記事[アメリカ「アメリカはTPPに入らない。中国がTPPに入る」/日本外交の強かさ] でも示したとおり、今は日本の戦略的交渉により日本に主導権がある状態です。


端的に説明すると、日本は世界最大の牛肉輸出国であるブラジルとのFTA(正確にはブラジルを盟主とする関税同盟であるメルコスールとのFTA)を外交カードとしてちらつかせ、日米TAGでアメリカが得た最大の成果である牛肉の輸出機会の拡大(関税削減)を無意味なものにすると脅してきました。
これは決して根拠の無い話ではなく、
①安部政権になってから、日本はメルコスールとのFTA交渉に前向きな姿勢を見せてきた。
②ブラジルは世界最大の牛肉輸出国だが、日本は検疫上の理由でブラジルからの牛肉輸入を禁止している。
③日本は2019年に、メルコスールの加盟国でブラジル同様に検疫上の理由で輸入を禁止していたウルグアイからの牛肉輸入を19年ぶりに再開した。
④2019年に日本がアメリカからトウモロコシの輸入拡大を求められた際、アメリカからの輸入を1/4も削減し、減少分をブラジルからの輸入で賄った。(トウモロコシは、航空機に次ぐアメリカ第二位の対日輸出品
と、日本が露骨にアメリカ牛肉の輸入に対する圧力をかけ続けていることが分かります。

トランプ政権からバイデン政権へ移行し、アメリカは国内の労働者保護のためTPPを含む自由貿易協定に後ろ向きな姿勢を見せてきましたが、日本としてはせっかく戦略的にアメリカを追い詰めてきたのにここで逃がすわけにはいかないと、安倍政権からの対米強気外交を菅政権が引き継ぐことをアピールしているのかもしれません。

アメリカ国内の牛肉業者から強気の対応を求められ、アメリカが牛肉セーフガードの撤回を求める可能性はありますが、前述のとおり一昨年トウモロコシの輸入拡大を要求したときにはかえって輸出が減少しており、牛肉でも二の轍を踏むことになりかねませんので、アメリカは早くも難しい舵取りを迫られることになります。

このタイミングでアメリカ牛肉のセーフガードを発動させるのは、日本からの自由貿易協定協議再開というメッセージと見られます。日米2+2協議では、アメリカの国益にも叶うとはいえ、海警法への言及や尖閣諸島への対日防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条の適用確認など、日本としては大きな成果を得たと言って良いでしょう。
十分に実利を得たと見るや、即時次を見据えた動きに取りかかる姿勢は心強いものがありますが、これによって日米首脳会談が延期になっては元も子もありません。4月9日が軸であると報道されるなど、事務レベルでもひっくり返されない段階を見計らっているとは思いますが、アメリカに不利な条件を突きつけすぎて結局逃げられてしまったTPPの二の舞にならぬように配慮して進めてほしいと思います。