今日、僕はサドハドした。日付が変わるくらいに家に帰る。今日だけじゃない。かれこれ一年近く、僕はサドハドにのめり込んでいた。後ろめたさが無いわけではなかった。それでも、こんなささやかで幸せな生活が続けばいいと祈りながら、ドアの前に立つ。中央に嵌められたステンドグラスの窓の奥に、暖かな光に縁取られた人影が見える。君が玄関で僕の帰りを待っている。客観的に見れば健気で可愛らしい状況で、僕はこれまでの生活が崩れることを悟った。これから僕は、愛する君に、愛するサドハドを、否定されてしまう。その先で迫られる選択の決断も定まらないまま、僕はドアを開けた。


おかえり。

ただいま。待っててくれたんだ。

話があってね。

何?

今日サドハドしてきたよね?

え?サドハド?してないよ?

ううん、今日だけじゃない。ずっと。こないだまた私がやめてって言ってからもずっと。

してないって。言われた後すぐやめたじゃん。

じゃあいっつも帰りが遅いのはなんなの?私がずっと家で寂しく待ってる間用事がないなら何して

してないってうるさいな、大学生なんだから色々あるだろ!

色々って何?

そりゃ友達とご飯行ったり遊んだりするだろ?

へえ、そう。毎週月木土に、大学生が節度を守って終電で帰ってくるんだ?

いっつも遊ぶやつと都合がつくのがその曜日なんだよ。俺だって待たせてる自覚はあるから終電で帰ってきてんの。

…わざわざ京都まで?

…!

わざわざ京都までみんなで行くの?

位置情報見たの?

なんで京都行くの?

俺の携帯から位置情報取った?

質問に答えてよ!

何でそんなことすんだよ!俺の

今はサドハドの話してるでしょ!!!

…サドハドしてるよね?

…してたよ。

何で隠してたの?

お前も位置情報見てるの隠してただろ

今はサドハドの話でしょ?

でもお前も隠し事してたからこうなったんだろ?

私は貴方がサドハドしてるかもって思ったから見た。私はそれが理由。貴方は何?

…また見つかったら、今度こそやめさせられると思ったから。寂しい思いをさせてるのは十分分かってた。でも俺にとっては君もサドハドも無いのが考えられないくらい大切だったから

分かってない。全然分かってないよ。だって結局やめてないじゃん。

だから俺にとってはどっちも

浮気してるんでしょ?

は?

浮気相手が京都にいて、そこに通ってどうせ二人でサドハドサドハドしてるんでしょ?!

してないってそんなこと!

嘘!もう信じられない!

サドハドは男ばっかだって!!!

…え?

サドハドはほとんど男ばっかだよ…

…男が好きなの?

え?

貴方は本当は男が好きで、私それに気づいてあげられなくてそれで、隠れてサドハドするようになったの?

落ち着けって違うよ!…一人も女性がいない訳じゃないし、それに、俺が好きなのは君だけだから…

…いろんな人としてるの?

…うん。

何人くらい?

…いっつも一緒にしてる人は18人くらい。一回だけとか合わせたら40人とか

40人!?私に黙って40人とサドハドしてたの?

いや、ごめん

近づかないで!汚らわしい!!

違うサドハドはそんなんじゃないって!!

じゃあ何でそんなことコソコソ続けてんの?

…いや、、

何?早く言ってよ!

…気持ちいいんだ。

ほら、やっぱり

最後まで聞けって!…サドハドやってる時ってすっごい楽しくて、拍子とかぐちゃぐちゃになって、昂ってる時におっきいホーンとか鳴ったらもう、すごくて、なんか一つになれてる気がして、それをたまに色んな人に見てもらうんだけど、知らない人の前でサドハドするってこんな楽しいんだって気づいて…そうだ、一緒にやらない?一緒にやったらきっと君も

やらない。そんな人前でサドハドなんてはしたないことできない。

はしたないってお前、サドハドすることを悪く言うなよ!

じゃあ別れて。

は?

そんなにサドハド傷つけたくないなら私一緒に居れない!

何でそうなるんだよ!

ねえ?やめよう?こんなこと、

やめられないよ

今やめたら許してあげるから…お願い…

俺にとってはどっちもかけがえがない大切なものなんだ!どっちかなんて選べる訳がない!

でももう私限界…


ねえ…


私とサドハドどっちが大事?




どうしてこうなってしまったのだろう?

いっそ夢だったらいいのに。

三度目の辛い夢であれば。