戴冠式まで、後一ヶ月。
カエール侯爵は第二王子の命令により、家で仕事をしている。戦いをやめさせるために、手紙を送ったり、隊長たちと会ったり、しかし体に無理のない程度に。
今日は書斎でアンヌに家・家計・社会について色々教えているところだ。
アンヌはテーブルに座って、侯爵に出された書類を読みながら、質問をしている。カエール侯爵は本棚の近くに立って、本と書類の場所を教えている。私は違うテーブルで勉強中。
侯爵は本棚に手を置き、下を見た
「アンヌ、少し席外してもらえるか」
「どうしたの、カエール?」
「お願いだ」
私とアンヌは目を合わせた。
「分かったわ。執事を呼んでくるね」とアンヌは書斎から出た。
私は侯爵に近づいてきた。
カエール侯爵は私に顔を向けない。少し本棚から離れて、手を口に当てる。指の隙間から漏れ、首をなぞるのは血。本棚においてあった手が棚を必死で掴む。
この時でさえ、気高き侯爵。倒れてはいけないと思っているだろう。
しかし口の中に手で押さえきれない血の量は戦場で吐いた量より明らかに多い。眼差しは冷静のまま、が、顔の様子と本棚を食い込んでる力の入った手から痛みを感じているに違いない。
咳を出し始めて、カエール侯爵は床に膝をつく。
私は侯爵の隣にしゃがむ。その時に書斎に入ってきた執事に
「私の部屋のテーブルにおいてある黒い箱を持ってきてください」と。
カエール侯爵は私の着ていたシャツを掴む。
咳が酷くなる。息ができない。私と侯爵の周りは赤く染めてゆく。
執事がすぐ持ってきてくれた箱から、私は薬を出した。
「飲めますか」
カエール侯爵は頭を少しだけ振る。無理だと言わんばかり。
私の肩に額を置いて、深い痛みを殺した低い叫びに、呟きになる。
必死で息をしようとしている。でも息する度に、咳。そして咳を出す度に、血。
「医者をお呼びしますか」と執事は私に聞く。
カエール侯爵は手に力を入れる。
「五分待ちます。五分経っても、カエールは薬が飲めない状況なら、医者を呼びますから」
侯爵は私の手の平にあった薬を取ろうとしたが、その余裕でさえない。
五分も待つまでもなかった。数秒後吐いた血の大量のせいで、カエール侯爵は私の腕の中に意識を失っていた。
つづく
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