ともに改善の動きを見せる雇用情勢について、イギリスとの違いが指摘されているようです。
【WSJ: A British Lesson on Boosting the Supply Side】
失業率の低下ペースがほぼ軌を一にしているアメリカとイギリスですが、その要因は随分異なるようです。
失業率は、労働力人口全体のうち、仕事をみつけられていない人の割合を示すわけですが
1. 仕事を見つけやすくなり、勤め先の無い人が減れば低下することはもちろんながら
2. 職探しを諦めて労働市場に参加しない人が増え、労働力人口そのものが減少しても低下する
という特徴があります。
で、このCEAの経済報告の指摘によると、1.が起きているのがイギリス、2.が起きているのがアメリカ、とのこと。
リンク先のウォールストリートジャーナルのブログに掲載されている図がこちら。これは、生産年齢人口の労働市場参加率の比較です。
オレンジ色のイギリスは、労働参加率があまり変化していないのに対し、青色のアメリカは下落傾向がハッキリしています。
そして、この違いの原因は、両国における近年の社会保障政策の転換にある、というのが経済報告の指摘なんだそうです。
イギリスでは、
・ これまで男性の65歳よりも早く60歳としていた女性の公的年金受給資格年齢を、男性と同じ65歳へと引き上げるとともに、
・ 生活保護受給世帯の一部について、求職活動への従事を要件とする失業保険の給付に切り替える
という政策変更が2010年に実施されました。
これにより、特に女性の労働市場への参加が促されるようになったようです。
逆にアメリカでは、社会保障給付の充実、資産調査対象世帯に対する税額控除の拡充、ブッシュ大統領時代の減税政策終了後の限界税率の引上げ等の政策が、労働市場への参加を阻害する方向に働いている模様。
これらの違いにより、
1. イギリスでは、働く意欲のある人が増えるとともに雇用も拡大して失業率が低下
2. アメリカでは、そもそも働く意欲を失う人が増えることで失業率が低下
という違いが生まれているのだとか。
ただし、イギリスも良いことばかり起きているわけではなく、働く意欲のある人が増えているという状況は、賃金が安くても働くという人が多い状況を意味しており、これまでのところ、実質賃金は低下傾向にあるようです。
このウォールストリートジャーナルのブログでは、労働市場に参加する意欲を失うことの履歴効果に着目しているようですね。
つまり、働く意欲を失い、労働市場に参加しない状況が長引けば、労働者としての技術が低下していくのに対し、現状の賃金が安くても、求職活動をして勤め先が見つかれば働くことを続けている間に、労働者としての技術も向上して生産性も上昇するため、最終的にはそれに見合った賃金を受け取ることができるようになる、その点でイギリスの労働市場の方が健全な状態である、と評価しているようです。