こんにちは。
昨年のクリスマス周辺で日本でもニュースで取り上げられたりしていたと思いますが、フランスでは12月5日以降、大規模なストライキが継続しています。今でも大部分の地下鉄やバスが時間を限定して間引きで運行していたり、市内の交通は正常化したとは言えない状況なんですが、その背景や現状が上手にまとめられているな、と思った記事がこちら↓↓
[WSJ: Paris Pension Protests Are Petering Out (1 Jan 2020)]
ストの背景を一言で言うと マクロン大統領が推進する年金改革への反対 ということなんですが、このフランスの現行の年金制度というものがなかなかのもので、ウォールストリートジャーナルの記事では
- もし若いうちに引退したいのであれば、フランスで鉄道の運転士になることを考えるとよい(If you want to retire young, consider becoming a French train driver.)
と書いてあります。フランス国鉄の運転士は、53歳6か月に達すると、退職後に月3,000ユーロ(約36万円)の年金給付が得られるのだそうで…他方で、民間の労働者の中には、62歳を過ぎてもなお働き続け、退職後は月1,000ユーロ(約12万円)にも満たない年金給付しか得られない人々もおり、著しい格差を生んでいます。
実際のところ、フランスの年金制度は、
- 職業や勤め先に応じて42もの制度が林立し、国鉄職員だけでも12の制度に分かれている
という、複雑怪奇な(byzantine)ものとなっているのですが、これらを統一的な公的年金制度に統合し、転職の有無によって給付水準の違いが生じないよう、給付を一本化しよう、というのがマクロン大統領の改革の根幹です。
当然、これまで優遇されてきた制度の既得権者からの反発を呼ぶわけですが、40日以上に及ぶ交通機関のストは、フランスの歴史上、最も長いものとなっている模様。
ただし、記事のタイトルの"petering out"(次第に減少する)という言葉が示すように、ストの参加者は開始直後の全国80万人という数字から、直近では45万2,000人へと減少し、パリに限れば12月17日の61万5,000人から5万6,000人にまで大幅に減少しています。世論調査でも、スト開始時にはこれを支持する声が56%、クリスマス前でも51%と過半数でしたが、現在は44%へと低下しているそうです。
このように、ストに対する一般大衆の指示が徐々に離れてきている背景には、マクロン大統領が穏健的な労働組合を抱き込む妥協策を打ち出していることがあるようです。
まず、政府は、今回の年金改革は、1975年以前生まれの世代の年金受給には影響しないこと、そして、2022年以降に働き始める人にのみ、全面的に改革が適用されることを約束しました。また、現在62歳とされている支給年齢を64歳に引き上げることが提案されていましたが、政府はこれについても再検討に応じる用意を見せています。
さて、国鉄職員向けの年金制度に代表される、非常に気前の良い制度の存在によって、フランスの年金制度の赤字は、2025年には170億ユーロ(約2兆円)に達する可能性があるそうです。現在、公的年金の給付総額はGDPの14%に達しており、これは、公務員に対する十分な年金給付水準を保っているスイスやノルウェーといった国の年金給付総額がGDPの7%であるのと比べると、かなり高い水準と言えます。
ストが始まった時点でも、76%のフランス国民は年金制度の抜本的な改革が必要と考えていたそうです。ただし、この時点では、マクロン大統領では適切な改革案を提示できない、と考えていた人が64%も居たそうなのですが…
ストに参加する労働組合が、革命家や共産党、過激なフェミニストらと与する状況の下で、一般大衆が次第にストに対してソッポを向き始める中、果たして最終的にマクロン大統領の改革案が人々の支持を得られるのかどうか、2022年の大統領選挙で、その結果が判明するのかも知れません。