今日は大切な日…
大切な人が生まれた日…
とても可愛らしくて見た目だけじゃなく誰にでも親切な人…

いつもは恥ずかしくて伝えられない言葉も今日は伝えられる…かもしれない

さぁ、そろそろ彼女が通る時間だ!
買っておいた花束を手に取ってドアを開ける

表に出るとちょうど遠くから歩いてくる彼女
オレは持ってきた花束を背中に隠して階段を登り始めた彼女に声をかける

『ヌナ!』

少し驚いたような顔をしてオレを視界に捉えると嬉しそうな笑顔を浮かべて手を振りかけてくる

あと数段というところで階段の一部分が欠けているのが見えた

危ないと思った時には躓いた彼女の体が傾く
オレは慌てて彼女の腕を掴み、更に反対の手でその腰をぎゅっと抱き寄せる

持っていた花束は支えを失って空に舞い上がり ゆっくりと降り注ぐ

「あっ…」

距離の近さに一瞬にして彼女の顔が真っ赤に染まる

「あ、ありがとう!私ったらいつも助けられてばっかりだね」

照れたように早口でお礼を言う彼女が可愛らしい!

『当たり前です!大切な人を助けるのは…でしょ?』

ケガなどしてないか彼女を見ると髪に小さな花が一輪乗っている。
それを手に取り彼女に差し出す

『お誕生日、おめでとうございます』

宙に舞ったどの花よりも彼女の笑顔が咲いた

「ありがとう!」

勢いよく抱きついてきた彼女を抱きとめて、しばしの間 この幸せの時間を過ごす
やっぱり今日は世界一、大切な日…

meny

オレの愛しい人…


その人は困っている人を放って置けない

オレとの出会いもそうだった


初めての土地で道に迷っていた時


「May I help you?」


かじりつく様に地図を睨んでいた視線を上げると覗き込む様にオレを見つめる彼女に一瞬で心を奪われた。


惚けるオレに言葉が通じなかったのかと眉を寄せた後、安心させるように優しい笑顔を浮かべて


「どこに行きたいの?」


地図に視線を移して身を寄せて来る彼女にオレの心臓の音が大きくなる。

それを悟られない様に平静を装って目的地を指差すと


「それなら こっち!」


彼女は初めて会ったオレの袖を軽く引いて目的地へ足を向ける。

歩きながら身振り手振りを駆使して話しかけてくれた。

ころころと瞬間ごとに変わる表情に目が離せない



目的地の事よりも すっかり彼女が気になってしまったオレは少しでも繋がりを断ちたくなくて別れ間際なんとか連絡先を交換して今に至る


とはいえオレ達の関係性は…トモダチのまま


今日はその彼女の誕生日

突然、好きと伝えたら困った顔するかな?

でも、もっと近付きたい…だから


『ねぇ、ヌナ…』

「あ、困ってる人発見!ちょっと行ってくる」


肩すかしをくらった事に思わず笑いがこぼれる。

でも、こんな彼女だから好きになったのだから仕方ないと思い あの時と同じ様に未だ身振り手振りで対応している彼女の姿を見つめていると 相手が同じ様に彼女を好きになってしまうのではないかと不安が胸を締めていく。


そんな時こちらを振り向いて笑顔でオレに手招きする姿を見るとモヤモヤしていた心がすーっと晴れて行く。

そして、あの頃の変わらず心臓の音が聞こえてくる。


この案内が終わったら 真っ先に伝えよう


『ヌナ、お誕生日おめでとう!オレはヌナが大好きだよ!ずっと一緒にいて下さい』って…


ヌナ、どんな顔するかな?

それがオレの大好きな笑顔でありますように…




meny

あ、まただ…
久し振りに会えたのに何か考え込んでるのか話しかけても上の空…
仕事で疲れてるのかも知れないけど最近連絡も少ない
付き合い始めて1年、これはさすがに不安になってくる
 
「疲れてるみたいだし、今日はもう帰ろうか?」
『えっ、あ〜ごめん』

本当、何考え込んでるんだろう?
もう一緒に居ることに飽きたとか…
あーっ、ダメダメ︎
1人で悩んだって悪い方にしか考えられない!
こんな時に頼りになるのは やっぱり女ともだち
そんなこんなで今に至る
 
[え〜っ、何それ!!なんで文句の1つも言ってやらないの!?]
「だって、忙しいんだろうし…」
[忙しくても そんなの感じ悪い!私が文句言ってやろうか?って言っても あれだけヌナ〜って惚れ込んでたのに突然変わっちゃうのも不思議だよね〜?う〜ん、勘違いかもしれないし何か仕掛けてみたら?]
 
仕掛けるって言ったって何をしたらいいのか…
考えに考えた結果、いつもやっている様にお誘いのメールをしてみることに
 
「お疲れ様!突然だけど今度の土曜日、忙しいかな?」
『何かあった?』
 
返信が早い!?
 
「もし、時間があったら一緒にご飯でも食べない?」
『ごめん…ちょっと手の離せない用事があって…』
「そっか〜、残念!じゃあ、また 今度ね!」
 
ため息を吐きながらカレンダーに目を向ける
あ、日曜日…私の誕生日だ
でも、何のお誘いもないって事は忘れちゃったのかな〜?
どんなに考えて どんなに悩んでも解決の光を見つけられないまま、気がつけば土曜日…
スマホが振るえ慌てて見ると友だちからの着信
 
「もしもし」
[もしもし〜、この前のどうなったかと思って電話してみたけど、その声の感じだと解決できてなさそうだね]
「あはは〜ごはんに誘ってみたりもしたんだけど断られちゃったし…」
[こら、ムリして笑うな!]
「心配かけてごめん!でも、大丈夫だよ〜」
 
大丈夫…それは自分に言い聞かせる言葉
 
[本当に?]
「うん、大丈夫…」
 
電話を切って、ため息をこぼす
朝からため息を何回ついたんだろう
間も無く今日が終わる
ぼんやりと時計を見つめれば秒針が何もなかったように日付けを跨いで行く
 
「誕生日…今まで迎えた中で一番モヤモヤしてるけどね、あはは〜」
 
机に突っ伏すと勢いが付き過ぎて額からごつんと鈍い音がする
 
「…痛い。痛いから少しだけ泣いてやる〜!」
 
ぽろんと涙が零れたと同時にインターホンの音が響く
え、こんな時間に だ、誰?
足音を立てないように玄関に向かいドアスコープを覗くと そこにいたのは
 
「ジョンス?」
 
慌てて先程こぼれた涙を拭ってドアを開ける
 
「こんな時間にどうし…」
『ヌナ、話があるんだ!ついてきて』
 
話…その単語に不安で体が固まってわずかに震えだす。
そんな私の手首を掴んでグイグイ進んで行く姿に
 
「待って、どこに…?」
『うち!いいから、ちゃんと着いて来て!』
 
彼の家に着いてカギを開けて電気も付けずに廊下を進む
 
「ちょっと、電気は?」
『いらない!ってか点けないで!』
「ええ〜〜!?」
 
まるで理解できないまま リビングに押し込まれるけど真っ暗で何も見えない!
背後でカチリとスイッチの音がすると間接照明の薄暗いライトが灯る
その灯りが照らし出したのは
 
「これ…さくら?」
 
普段はシンプルなインテリアの部屋の壁にいくつもの色紙で作った小さな桜がたくさん咲き誇っていた!
 
『そう!さすがに実物は持って来られないから紙製だけどね』
 
照れたように笑う彼から再び目を向けると中に大きめの桜が混ざっていて更に一際大きな桜に引き寄せられるように近づくと何か書いてある…
薄暗い中、目を凝らして見るとそこには
 
《誕生日、おめでとう!これから先もずっと一緒にいてください》
 
「これ…」
『あはは〜、オレからのメッセージ』
 
照れ臭そうに首元を摩るカレ
 
『あ、これ!ちょっと、大きめなのにはメンバーとかオレたちの事、知ってる人達のメッセージもあるんだよ!!』
 
誤魔化すように早口で説明をしてくれている姿にガチガチに緊張していた肩から力が抜ける
 
「…ありがとう!良かった〜〜私の考え違いで…」
『考え違い?』
「最近、上の空だったり なかなか会えなかったりで…もう一緒にいられないって言われるんじゃないかと不安で…」
『そんなわけないよ〜!ヌナの誕生日にサプライズをしたくて…!あ〜っ、でもそのせいでヌナが不安になってたなんて〜〜!!』
「ううん、私が勝手に不安になっただけだし…あ、でも私は…」
 
続きの言葉を口にするのが恥ずかしくて俯いてしまうと、小首を傾げたカレは私を急かさずに黙って続きの言葉を待ってくれる
 
「私は…どんなサプライズよりも近くでジョンスが笑っていてくれるだけで充分幸せだよ…」
『ヌナ〜〜、あんまり可愛い事言わないでよ!帰したくなくなる』
 
そう言って私をぎゅっと腕の中に閉じ込める
その温もりに幸せがあふれてくる
「ずっと一緒にいてね」
『ヌナがイヤって言うまで離れないよ…って ん〜〜、イヤって言っても離してあげられるか自信ないかも』
 
2人で視線を合わせて笑い合う
 
 
数日後
彼が私の部屋に遊びにきたのでキッチンでお茶の準備をしていると
 
『ヌナ〜』
「なに〜?」
『ねぇ、ヌナ〜〜』
「だから な〜に〜?」
『ヌナが遠いんだけど〜』
「え、今お茶を」
『ダメダメ、今すぐ近くに来て〜』
 
手を止めてキッチンからひょこっと顔を出し
 
「どうしたの?」
『まだ、遠いよ』
 
カレに近付いて
 
「はい、来たよ」
『まだまだ』
「え、でも」
 
カレと私の距離は軽く手を伸ばせば届く程、どうしたらいいものかと考えているとカレに腕を引かれればその腕の中に収まってしまう
 
『離れてたらヌナが不安になっちゃうでしょ?
…実はヌナのお友達からお叱りを受けたんだよね』
「えっ?」
『サプライズの準備だろうが何だろうが会えない間、ヌナがすっごく、それこそ消えそうなくらい落ち込んでたって!オレ、ヌナのためとか言って逆にさみしい思いをさせてたんだよね』
 
カレの腕が少しだけ強く私を抱きしめる
 
『ごめん…だからヌナが不安にならないように2人だけの時間はこうやって抱きしめる…
なんてオレがそうしたいだけなんだけど(笑)』
「でも、これじゃあ お茶も淹れられないよ」
『う〜ん、じゃあオレがくっついて行けばいい』
「それは動き辛いし火傷とかしそうで危ないよ」
 
都合の悪い事はあからさまに聞こえてないフリですり寄ってくる
 
「全く仕方ないな〜」
 
そう言って私からもぎゅっと抱き付く
そんな2人の姿を壁に飾られた額縁の中から桜のメッセージが見守っていた…
 
                                                                                      meny