大きな独り言

大きな独り言

妻、母、女、人間としての記録と人間観察日記 in アメリカ

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英語で
I want to be part of the solution
という表現があります。

問題の解決策の一部になりたい、という意味です。


ジョージ・フロイド以降、
アメリカの人種問題についてこの表現を
個人や団体や会社が使うのをよく目にします。


実は昨日、また近所で人種絡みの
一悶着があったのですが
問題の解決策の一部になるとは
どういう事なのか、
私なりに学んだことがあったので
ここに書き記すことにします。




登場人物①はタイリーです。
このブログにもちらっと
登場したことがありますが、
数ヶ月前に都会から郊外のこの街に
引越してきた黒人男性です。

貧困出身ですが自営業で成功して
裕福であり、買った家をとても大事に
手入れしていて、庭いじりが趣味の
私の夫に色々質問したりするうちに
仲良くなりました。


登場人物②はケビンです。
タイリーの家の隣に住む白人男性(多分50代後半)で、昔からこの街に住んでいます。
彼は元軍人で事故で脳にダメージがあり、
記憶障害があったり、
感情の面で不安定だったりします。
私たちが自転車で毎日近所を
ぶらぶらしているうちに話すようになり、
つい数週間前に夫と携帯番号を交換して、
事件当日は私達は
ケビンの家のバックヤードで
ゲームをしようと約束していました。


私の夫は両者と直接に
関係があるという立場です。



タイリーは引越してきた時に
庭に大きなプールを作り、
家の中もかなりお金をかけて改装しました。


毎週のように友達を呼んで
大きなプールパーティーを開いています。
一応、野外でソーシャルディスタンスをし
コロナ対策をしているとの事ですが、
私の見た感じではそこまで徹底もしていないし、
毎週のようにゲストの車が
たくさん駐車されており、
音楽もうるさいので、
早い話が近所迷惑になっています。


夫は1ヶ月ほど前にタイリーの本棚に
あった本「The kite runner」をもらい、
その内容にとても感動しました。

そのお礼に同じ本の
ハードカバー版を購入し、返す事にしたのですが、それが、たまたま昨日であり、
タイリーは大きなプールパーティーを
開いていました。


ちなみに本のテーマは「罪と許し」。
邦題は、君のためなら千回でもです。


アフガニスタンの少年2人の
貧富と身分の差を超えた友情と裏切り、
償いが描かれています。
奇妙なことにこの本のテーマが
今日の記事のキーワードになってきます。

"There is a way to be good again”
(良い人間になるためにやり直す方法がある)
という印象的な台詞がこの物語を進めていきます。




本をタイリーに渡して、
家を去ろうとした時に
警察の車が二台止まっていることに
気がつきました。
そう、隣人であるケビンが警察を呼んだのです。


その日、タイリーのパーティーの
ゲストがケビンの家の前の消火栓を塞いで
駐車したり、そもそも駐車すべきでない道に
止めたりするのをいちいち注意するのに
疲れたケビンは、オレンジ色のコーンを
タイリーの家の前に置いて車をブロックし、
違法駐車している車の罰金チケットをきらせるために警察に通報したのです。


家から出てきたタイリーは、
警察の仕事を労いながら、
「パーティーしてるのが向こうだったら同じ扱いにはしないんだろう」みたいなことを言い、
ケビンに対してこのコーンを今すぐどけろ、
と罵り言葉を使いながら怒鳴りました。

それに対しケビンがキレて怒鳴り合いになりました。警察はというと、タイリーのゲストの車に駐車違反チケットを切り、

ケビンに対してコーンをどけろと言い、
客観的に見て、対処すべきことをやっていました。ケビンは、すぐに罰金を払える、
この10倍の額を今すぐ払ってやるよ、
みたいな事を捨て台詞で言い放っていました。


夫は、タイリー、警察、ケビンの全員と話して事態を鎮火させようとし、コーンを集めはじめました。タイリーは夫を止め、ケビンに集めさせるのが筋だ、みたいなことを言いました。


ケビンの怒りは収まらず、興奮していました。
彼は脳にある障害のせいで、感情が高ぶると元に戻るのは難しいのです。
もし彼が銃を持っていたら、と思うと
何があってもおかしくなかったような状態でした。
奥さんと成人した息子さんが無理やり家の中に押し込める形でその場を去りましたが家の中に入ったあとに聞こえてきたのがNワードでした。


前述した通り、私たちはこの日、
ケビンの家のバックヤードで
ゲームをする予定だったので、
タイリーの家のあとに
ケビンの家に行こうとしていたのです。


こうして、毎日のように挨拶をして、
初めて一緒に会う約束をしても、
怒った時には黒人に対して
結局はこういう侮蔑語が出てくるんだなぁ
ということがハッキリ分かった今、
それが自分たちに(夫や私の子供に)向けられた言葉ではなくても、やはり傷ついた。


その時、すでにタイリーは
家の中だったのでケビンの放った言葉を聞いておらず、その場に残ったのは私達と警察だけでした。


夫は警察の元にいき、他の人がケビンの声を聞いたら大変だから、窓を閉めるように言ってくれないか、と頼みました。


そして、ぐったりしながら
帰宅した私たちでした。


客観的な立場の私からみて、この事件は
両方に非があるというふうに感じました。


タイリーは、警察に対してあんな風にいう理由は
どこにも無かった。

だって、警察は彼に対してフェアだったのです。
それにタイリーの(ゲストの)責任でこのような事態になったのに、それを棚に上げて、完全に私的な感情で人種差別の被害者のカードを引いているように私には思えたのです。


それに口汚い罵りを先に始めたのは彼です。ケビンに脳の障害があるのは知っているのだから、もう少しどうにかならなかったのかと思うのです。


一方でケビンは、コーンを勝手にタイリーの家の前に置いたのは良くなかったと思うし、家族にとめられるほど興奮して、タイリーが聞いていなかったから良かったものの、Nワードを放ったことは言語道断です。


今日の朝、ケビンから夫に
長い謝罪テキストが入りました。



私たちの前であんな醜態を晒したこと、
タイリーに対しての自分の対応を
後悔している様子でした。


夫の返事は、


I accept your apologies.
You are my brother, and I love you.

謝罪を受け取りました。
あなたは私の兄弟で、愛しています。


数分後、タイリーからテキストが入りました。
本をありがとうというお礼でしたが、昨日の事件については何も触れていませんでした。


夫の返事


For you, a thousand times over, brother.
兄弟、君のためなら1000回でも。


本からの引用です


そして今日、夫はケビンに会いに行きました。



夫は自分がタイリーからもらった
The kite runnerをケビンに
あげることにしたのです。

いがみ合っている隣人同士が
夫を介して、同じ本を受け継いだ。


↓本の表紙裏に夫が書いたケビンへのメッセージ。
(注意・どこを見ても愛に満ち溢れている)

ケビン、これはタイリーが私にくれた本です。
あなたに持っていて欲しい。
罪と許しについての物語です。
兄弟、愛しています。
2020年9月6日





ケビンは夫があの場にいなければ、自分は警察を殴ってしまい、今頃、逮捕されていたかもしれないこと、夫に彼も家族も助けられたということ、以前から夫がこのコミュニティのどんな人間にも愛を持って接していることを見ていたこと、自分は脳の障害のせいで近所の人から特異に見られていて誰も寄り付かず友達がいないこと、自分がNワードを言い放ったことで、夫と築けるかもしれなかった友人関係を台無しにしてしまったと悔いて、泣いたそうです。


There is a way to be good again.

夫は、ケビンにそう言いました。


トランプ政権下でこの国が真っ二つに別れていますが、国民をひとつにまとめる、というのは、こういう事ではないかと思ったのです。



誰も完璧ではなく、
世の中は完全な悪や善で
成り立っているわけではない。

リーダーは
どちらかの肩を持つということではなく
溝をどうにか無くすような努力をするべきです。


人種問題の解決策の一部になりたいのであれば、
必要なのは、相手に対するコンパッション(同情)や、許すこと、愛、というシンプルな人間らしい気持ちをもつことであり、恐怖を煽って人と人を対立させるようなリーダーでは、状況は悪化するばかりでは無いかと思うのです。






興味のある方は是非、映画版もあります。
夫はこの映画を見て号泣しているところを
インスタカート(買い物代行サービス)の人が来て
泣いたまま買い物袋を受け取っていました。。。。