シェリル・ステューダー

Cheryl Studer

1955年アメリカ生まれ。1985年、バイロイトにおいて代役でエリザベトを歌い、センセーショナルな成功をおさめた。87年、やはりバイロイトで『ローエングリン』、ミュンヘンで『リング』に出演し、名声を高めた。さらにスカラ座にデビューして一躍スターにのし上がった。

 

鋭く伸びる力のある高域を有する素晴らしいソプラノ。少しリッチャレッリに似ていると思うが、リッチャレッリよりも多芸であるようだ。初めて聴いたときには凄いプリマが現れたと思ったが、93年の産休の後、絶不調に見舞われ、高音域がまったく出なかったこともあるという。グラモフォンの優秀なデジタル録音技術に恵まれ、優れたオペラCDを残しているが、本来ならもっと多くのオペラを録音できたと思うとそれが残念だ。

 

 

(1)ヴェルディ『アッティラ』 ムーティ指揮 ミラノ・スカラ座管弦楽団 ワーナー1988

ステューダー(オダベッラ)、レイミー(アッティラ)、ザンカナーロ(エツィオ)、シコフ(フォレスト)

ステューダーの全盛期の歌唱はこれではないだろうか。オダベッラは高度なテクニックとパワーが要求される役だが、見事にこなしている。ステューダーの実力が最も発揮されているのがこれである。このオペラに関してはドイテコムのものを聴いて感心したことがあるが、ステューダーも遜色ない。

 

(2)ヴェルディ『オテロ』 ミュンフン指揮 バスティーユ・オペラ・オーケストラ グラモフォン1993

ステューダー(デズデモナ)、ドミンゴ(オテロ)、レイフェルクス(ヤーゴ)

ステューダーのデズデモナは文句のつけようがない。リリックな美しさだけでなく情感も豊かである。フレーニ以降、久々にそれらしいデズデモナを聴いた。残念なのはレイフェルクスのヤーゴでこれが軽すぎる。ヤーゴにもっと毒々しい迫力があれば完璧だっただろう。ヤーゴは非常に重要な役なのだ。


(3)モーツァルト『フィガロの結婚』 アバド指揮 ウィーンフィル グラモフォン1993

ステューダー(伯爵夫人)、ルチオ・ガッロ(フィガロ)、シルヴィア・マクネアー(スザンナ)、ボイエ・スコウフス(伯爵)、チェーチリア・バルトリ(ケルビーノ)、インインデブランド・ダルカンジェロ(バルトロ)

一聴して驚いたのは録音の良さである。オケの細かい音が隅々まで出ている感じで、そのためアバドが細部にまでこだわって非常に丁寧に指揮しているのがよくわかる。指揮者と録音技術陣との共同のファインプレーである。ルチオ・ガッロのフィガロはやや高い声で、これはベーム盤のヘルマン・プライの影響があるのだろうか。この演奏自体、ベームの演奏を意識しているような気もする。ベームを超えようとしたのだろうか。しかし、録音の良さはともかく、歌手陣のキャラの面白さからいってもベーム盤は超えていない。なお、ステューダーは伯爵夫人を上手く演じており、なんでもこなす器用な歌手だということがわかる。バルトリはケルビーノに合ってないと思う。

 

(4)ヴェルディ『リゴレット』 レヴァイン指揮 メトロポリタン歌劇場管弦楽団 グラモフォン1993

ステューダー(ジルダ)、ウラディミール・チェルノフ(リゴレット)、パヴァロッティ(マントヴァ)、ロベルト・スカンディッツィ(スパラフチーレ)、デニース・グラフェス(マッダレーナ)

隙のない歌手陣である。完成度が高い。ステューダーのジルダも申し分ない。安心してオススメできる。

 

(5)ロッシーニ『セミラーミデ』 マリン指揮 ロンドン響 グラモフォン 1993
ステューダー(セミラーミデ)、サミュエル・レイミー(アッスール)、ジェニファー・ラーモア(アルサーチェ)、フランク・ロバード(イドレーノ)、フランク・ロバード(イドレーノ)

これはステューダーもレイミーもラーモアもよいが、とくにラーモアのアルサーチェは素晴らしい。マリリン・ホーンに迫る出来。

 

(6)ヴェルディ『椿姫』 レヴァイン指揮 メトロポリタン歌劇場管弦楽団 グラモフォン1992

ステューダー(ヴィオレッタ)、パヴァロッティ(アルフレード)、ファン・ポンス(ジェルモン)

ステューダーのヴィオレッタはこれだけ聴くと決して悪くはないのだが、どうしてもクライバー盤のコトルバスと比較してしまう。コトルバスと比べるとはっきり劣る。とくに『花から花へ』では超高音域が全然出ていない。このときは不調だったのだろうか。

 

 

 

・・・こうしてみると、1992年~93年に録音が集中していることがわかる。これ以降、急激に調子が落ちるわけだが、声を酷使しすぎたのではないだろうか。もしそうだとすれば、非常に残念である。かなりの大器だったと思う。

 

 

 

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