アニャ・シリヤ
Anja Silja

1940~。ベルリンに生まれる。8歳の頃から歌を習い始め、10歳の頃から演奏会に出演していた。15歳の時にブラウンシュヴァイクの歌劇場で『セビリアの理髪師』のロジーナを歌い、オペラデビューを飾った。その後、シュトゥットガルト、フランクフルトの歌劇場で歌っていたが、サヴァリッシュに見い出されて、いきなりバイロイトデビューを果たす。これをみたヴィーラント・ワグナーがぞっこんとなり、以後バイロイトの常連となった。

20代前半の録音がいくつか残っている。いずれも初々しく素人っぽい声で歌っているが、声に力があり、才能を感じさせる。上手いとは言えないが、少女に特有のいわゆる「不思議ちゃん」のような魅力があり、これはどんなに熟達したプロのソプラノ歌手にも絶対に有しえない魅力である。ヴィーラント・ワーグナーが魅かれたのもわかる。


(1)ワーグナー『さまよえるオランダ人』 サヴァリッシュ指揮 バイロイト祝祭 デッカ1961
アニャ・シリヤ(ゼンタ)、フランツ・クラス(オランダ人)、ジョセフ・グレインドル(ダーラント)、フリッツ・ウール(エリック)
このCDの売りはもちろん、アニャの歌うゼンタである。アニャは録音当時21歳だったことになるが、素晴らしい。ゼンタは巫女のようなやや神がかり的な少女なのだが、これがアニャにぴったりなのだ。しかも演技しているのではなく、地のまんまなのである。他の配役も欠点がない。名盤と言えるかどうかわからないが、一度は聴いておきたい。

(2)ワーグナー『さまよえるオランダ人』 クレンペラー指揮 ニューフィルハーモニア管弦楽団 EMI1968
アニャ・シリヤ(ゼンタ)、テオ・アダム(オランダ人)、マッテイ・タルヴェラ(ダーラント)、エルンスト・コッブ(エリック)
これはアニャが28歳のときの録音ということになる。バイロイト盤に比べると、やや素人っぽさが消えて上手くなっているような気がする。不思議な魅力は健在である。他の配役は、テオ・アダムのオランダ人が明らかなミスキャストである。ただ録音はこっちの方がはるかによい。総合的にいって、音楽鑑賞の対象としてはこっちの方がいいと思う。

(3)ワーグナー『ローエングリン』 サヴァリッシュ指揮 バイロイト祝祭 フィリップス 1962
アニャ・シリア(エルザ)、ジェス・トーマス(ローエングリン)、アストリッド・ヴァルナイ(オルトルート)、ラモン・ヴィナイ(フリードリヒ)、フランツ・クラス(ハインリヒ)
アニャのはまり役はゼンタだと思うが、その次がエルザである。往年の名歌手ヴァルナイがオルトルート、ヴィナイがフリードリヒを歌い、アニャのエルザと絡むのも聴きものである。このオペラのCD自体は他にもっと良いものがあるが、話題性のあるこのCDも聴いておきたい。

(4)ワーグナー『タンホイザー』 サヴァリッシュ指揮 バイロイト祝祭 デッカ 1962
アニャ・シリア(エリザベス)、ヴィントガッセン(タンホイザー)、グレイス・バンブリー(ヴィーナス)、エーベルハルト・ヴェヒター(ウォルフラム)、ヨセフ・グラインンドル(ヘルマン)、ゲルハルト・シュトルツェ(ヴァルター)、フランツ・クラス(ビテロルフ)
このCDのみどころは黒人歌手としては初めてバイロイトに抜擢されたグレイス・バンブリー(当時24歳)とアニャ・シリア(このCDの録音当時22歳)である。アニャのエリザベスは、ゼンタやエルザに比べると、必ずしも適役とは言い難い。グレイス・バンブリーのヴィーナスは色気のある美声でとてもよい。ヴィントガッセンとの相性もよい。

(5)ベルク『ヴォツェック』 ドホナーニ指揮 ウィーンフィル デッカ1979
アニャ・シリア(マリー)、エーベルト・ヴェヒター(ヴォツェック)、ヘルマン・ヴィンクラー(鼓手長)、ヘルマン・ツェドニク(大尉)、ホルスト・ラウエンタール(アンドレス)
『ヴォツェック』はこれまでただストーリーも音楽も暗いオペラとしか思えなかったのだが、この演奏はかなり楽しめる。まず録音が非常によくてウィーンフィルの華やかな音色が活かされており、各楽器のアンサンブルが楽しめる。アニャ・シリアはこのCDの録音時には39歳ということになるが、当然ながら初期の初々しさは失せて、非常に上手い歌手になっている。もともと才能のある人であったことが改めてわかる。声の質がやや無機的なので、こういう現代音楽が合っている。他にシェーンベルクの歌集のアルバムも出している。

 

 

 

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