ビヴァリー・シルズ
 Beverly Sills

1929~2007。ニューヨークのブルックリンに生まれる。1947年フィラデルフィアで『カルメン』のフラスキータでデビュー。1955年、ニューヨーク・シティ・オペラと契約、『椿姫』でデビュー。多くの脇役を歌ったが、57年『ミニヨン』のフィリーヌを歌って注目を浴び、ルチア、『ファウスト』のマルガレーテ、『金鶏』のシェマハの女王、『魔笛』の夜の女王などを歌って劇場のプリマドンナとなった。67年、ウィーン国立歌劇場に招かれて夜の女王を歌う。68年、ブエノスアイレスのテアトロ・コロンでヘンデルの『ジュリアス・シーザー』のクレオパトラを歌って喝采を浴びる。69年、スカラ座に『コリントの包囲』のパミーラでデビュー。

アメリカ出身の歌手で、グラモフォン、デッカといったヨーロッパ大手のレーベルでの録音が少ないので日本での知名度はいま一つ。その実力のわりには知らない人が多いと思うが、かなり派手なコロラトゥーラを聴かせる人で、それが一番の聴きどころでもある。ヨーロッパのコロラトゥーラと比べるとややケバい感じもするが、艶やかな美声の持ち主で演技もうまい。是非とも聴いてみて欲しい歌手である。


(1)ヴェルディ『椿姫』 チェッカート指揮 ロイヤルフィル ワーナー1971
ビヴァリー・シルズ(ヴィオレッタ)、ニコライ・ゲッダ(アルフレード)、ローランド・パネライ(ジェルモン)
ヴィオレッタはシルズの十八番とされている。『椿姫』はコトルバスのものを最上としているが、シルズも非常によい。見事な美声で情感豊かに歌い上げる。ゲッダとの組み合わせはよいと思うが、パネライはジェルモンに合うんだろうか。

(2)ロッシーニ『セビリアの理髪師』 レヴァイン指揮 ロンドンフィル EMI1974
ビヴァリー・シルズ(ロジーナ)、シェリル・ミルンズ(フィガロ)、ニコライ・ゲッダ(伯爵)、レナート・カペッキ(バルトロ)
『セビリアの理髪師』は旧アバド盤を定盤としているが、このCDも面白い配役で指揮もよく、かなり楽しめる。ビヴァリー・シルズのロジーナもゲッダの伯爵もなかなかよい。ミルンズは例によって演技過剰であるが、まあ笑って許せる範囲。注目すべきはレナート・カペッキのバルトロで、この人はオペラ・ブッファを得意とする名バリトンとして知られているが、登場するCDは少ないので、この人が出演しているCDとして貴重。

(3)ベルリーニ『ノルマ』 レヴァイン指揮 ニューフィルハーモニア管弦楽団 グラモフォン1973
ビヴァリー・シルズ(ノルマ)、エンリコ・ディ・ジュゼッペ(ポリオーネ)、シャーリー・ヴァーレット(アダルジーザ)
シルズがノルマをどのように歌うかは注目されるところだが、やはりドラマティコの要素がないので物足りない。たしかにシルズのコロラトゥーラは見事だが、この役をコロラトゥーラ一本で押し通すのは無理である。それよりも感心したのはシャーリー・ヴァーレットのアダルジーザで、これがじつに見事。プリマの貫禄十分で下手をするとシルズを圧倒している。しかし、いずれにしても、レヴァインの指揮もよく、いろいろな意味で聴きごたえのある一枚ではある。


この3枚のCDはいちおう順番をつけたが、いずれも聴く価値がある。
あと、ビヴァリー・シルズの素晴らしいコロラトゥーラを聴きたいならソロアルバムの方がいい。『シルス・コロラトゥーラ名唱集』(PROBE)がオススメ。しかし、日本ではマイナーなので入手は非常に困難であろう。



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